mirai

0日目

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 一瞬、体が浮いた。そんな感覚を感じる間も無く、ミライは四階から重力に従い落ち
る。下には大きな木がありクッションとは言い切れないが、そのまま四階から落ちた時
より衝撃は和らいだ。
「いったー...」ロボットなのに痛覚があることを恨めしく思うミライだったが、普通の
人間が同じように落ちたら入院確定コースだった。
「うぅ...おじいちゃん!」今の状況を思い出したミライは慌てて四階の自分達の部屋を
目指した。
「おじいちゃん!」
 ミライは狭い一室を見渡す。部屋は静かだった。部屋の様子を確認しようと部屋に上
がるとミライの足に何かが当たりミライはこけそうになる。
「んー...。......「え......?」」横たわっていた人とミライは同時に声を漏らす。
「お...女の子が突然家に...。......なんだ? 訳あり少女なのか? 家出少女なのか? 
それとも悪魔か天使か? 契約か? ついに俺も...こんなツインテールでかわいい女の
子と素敵展開に...!」叫びだすのかと思いきや男は興奮しだし、次第に感動しだした。
「あっ、部屋間違えました―!」ミライは慌てて部屋から出た。部屋からは叫び声が聞
こえたような気がしたがミライは考えるのをやめて走った。
 がむしゃらに走っていたらいつの間にか公園に入っていた。周りには木々が月の光を
隠さんばかりに生い茂っていた。
 ミライは一つ、確認しておきたいことがあった。入り口近くの落ちている新聞に目を
通す。
「...ちゃんと成功していたんだね。おじいちゃん」呟きながらミライは懐中時計と新聞
を交互に眺める。
 ミライは考える。自分は過去にタイムスリップしたこと。そして時三に言われた助け
てほしい子...。
(あれ、そういえば名前聞いてないじゃん?! ...! そうだ、この時代のおじいちゃ
んはどうしているんだろ......三十年前だから学生のはず)
「たしかこの街に昔から住んでいるって言っていたからいると思うんだけどなぁ、どこ
に住んでるんだっけぇ...」深夜の街を一人で歩く街並みは変わり同じ町なのに土地勘と
いうものが全く意味をなさなかった。ふとミライの目に入った建物があった。時塔学園。
ここで待ち伏せすれば会える。そう思ったミライは放課後になるまで町を探索して回っ
た。


 放課後、学生たちがゾロゾロと下校しだす時間。ミライは見た目が学生たちと何の違
いもない。街を探索していると警官と目が合って結局、探索を打ち切り、公園で時間を
つぶしていた。校門で、時三が出てくるのを待つ。そこに来て初めてミライは一つの問
題に気づく。
(私のことどうやって、紹介すればいいんだろう...)
 ミライは正直に言ってみようと考えた。将来、タイムマシンを作るような人だ。もし
かしたら信じてもらえるかもしれない。タイムマシンの存在は教えても良いが未来の事
は教えてはいけない。
(んー、難しいなぁ...。未来からきたことを教えて、その内容を言えない...。信じても
らえるのかな...)
(でも、作った本人に明かすのはどうなるんだろう)
 ミライは難しいことを考えるのは苦手だった。考えても仕方ないと判断し作った本人
に普通にタイムマシンの存在を明かすことにした。
 時三の姿はアルバムで見せてもらったことがあった。下校する時三の後をついて行く。
時塔公園の通りにさしかかると、人影はほとんどなかった。
 ミライは特に何も考えずに話しかけた。
「ねぇ君」
「......」
「ちょ、ちょっとちょっと無視しないでよ」
「えっ僕?!」
「そうそう! 君だよ、おじい...時三青年!」
「いや、いいよ、みんなからもジーサンって呼ばれているし」
「ジーサン?」
「そう、時をじって読んで三つをさんって読んでジーサンって呼ばれてるんだ」
「その若さでジーサンなんだね」
「最初はいやだったけどいつの間にか慣れたよ。今では話のネタにできるからむしろジ
ーサンって呼んでくれた方が違和感がないよ」
「ジーサン...ねぇ」
 ミライはおじいちゃんと呼ばせている未来の時三の姿を思い出す。
「ところで君はなんで僕の名前知ってるんですか?」
 この質問にはどう答えるか? いくら考えても答えは出ないので正直に話す。ミライ
は最初からそう決めていた。
「ちょっとさ、未来からやってきたんですが...」真面目に話すのが苦手だなっと思うミ
ライは苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうに答えた。
 すると明らかに時三は迷惑な勧誘に引っかかったような顔をする。
「えっとね、私は未来から来たって言ったら信じる?」
「...信じない」
「まぁそうだよね...」
「それだけですか...? あの、用事があるんでもう行きますね」
「あ、待って」ミライは慌てて時三の手を掴む。
「な...なんですか」警戒の色を濃くする時三がミライを見る。
「これ見て」
「懐中時計がどうしたんですか」
「これがタイムマシンなの」
 時三はミライと懐中時計を交互に見て残念な子を見るようなお顔をミライに向ける。
「なら! あたしを見て」
「えぇそれで?」時三はとっとと解放されたいのか対応が段々いい加減になりだす。
「あたし! ロボットなの!」
 ほら! と言ってミライは首を外す。
「え?」目の前に認識していたものが突然別のものになり時三は止まる。
「どう! これで信じる気になってってわぁ!」
 時三はミライの首と体の隙間に手を入れる。
「え? 手品? え? どうなっているの?」
「どう、ちょっと話を聞いてみない?」首を両手で持って時三に語りかける。
 まだ目の前の光景が信じきれないまま時三は答える。
「あぁ...ちょっと聞いてみる...」
 時塔公園のベンチに座り、時三を落ち着くのを待ってからミライはこれからのことの
説明に入る。
「ありがとう、いきなり未来から来たって言われても信じないよね。私の名前はミライ。
よろしくね」
「僕は時尾時三、よろしく」
「いきなり本題なんだけど、さっきの話信じてくれる?!」
「嘘を言っているわけでもなさそうだけどまだ、完全に信じる訳にはいかないよ...」
「じゃあ、このあとジーサンに何が起きるか教えてあげるから...」
「待って、僕の未来のことを話すのは無しにしてほしいんだ」
「え? どうして?」
「もしここで、未来のことを聞いてしまったら僕は多分違う生き方をする。そうすると
君は、いなくなっちゃうんじゃないかな」
「ふんふん、それでそれで」
 ミライは未来の時三から同じことを言われ同じ人間なんだなと実感する。
 時三は小枝で地面に一本の線を書く。線の右端に未来、左端に過去と書き込む。
「もしこのまま進む未来で、僕が死ぬという事実を聞いたとする」そういって右端にバ
ツ印を描く。ミライはタイムスリップする前の時三の顔を思い出す。胸の辺りに重い何
かが圧し掛かる。
「それを聞いた僕は死ぬことのない、...君がいた、その未来にならないよう目指すと思
うんだ」
「でもでも、おじいちゃんはこの過去を変えても科学者になるって言ってたよ」
「それは、科学者になる僕だったからなんじゃないかな...。悪いけど、今の僕は、まだ
科学者になりたいとはあまり思ってないかな...」
「そんなぁ...」
「これは極端な例だし、生き方を変えても君はいるかもしれない。」
 ミライが深刻そうな顔をするので時三は気まずそうにフォローを入れる。
「ところでさっきの懐中時計もう一回見せてくれないか?」
 ミライはスカートのポケットから懐中時計を取り出す。その時、一枚の写真がポケッ
トに入っていたことに気づく。
「その写真は?」
 時三が写真を覗きながらミライに聞く。
「これは、タイムスリップする前に撮った写真」
「もしかして、左にいるのは僕?」
「そうだよ。ジーサンのおじいさん姿だよ」
「見なきゃよかった...、僕は将来こんな姿になるんだね...」
 ミライは写真に写る時三を見て夕焼けを見て慌てて帰った時の気持ちになる。時三は
この写真の後のことを知らない。
(おじいちゃんはジーサンに会えってあの時言った。そして、あの人と友達になれって
言った。...そういえばあの人の名前聞いてなかったなぁ...)
 時三は写真と懐中時計を眺めている。その横顔に未来の時三に重なるものをミライは
感じた。
(ま、おんなじ時尾時三だから当然か。親子じゃなくて本人だもんね)
「今日は話しを聞いてくれてありがとう」
「いや、僕も首が外れるまではかわいそうな子だと思っていたから感謝なんて言わない
でよ」
「ひどっ!」
「まぁまぁいきなり言われるとね、それにしても三十年後はすごいね。ロボットなんか
が開発されているんだね...」
「ロボット工学は熱狂的な研究者が多く集まって特に進んだ技術なんだって」
「すごいね...未来の僕も何か発明してんのかな...あ、ごめん答えなくていいよ」
「ふふ、やろうと思えばできるんじゃないのー?」
「...自分で言い出したことだけど、そんな言い回しされるとすごい気になる」
「あっそうだ。未来のことは言えないけど来た目的なら言ってもいいよね」
「......まぁそれを聞かなきゃミライの来た意味がないもんね...」
「それでそれで、来た目的は...友達になりに来たのと、問題を起こしに来たのです」
「え、何。侵略しにきたのか、友好的なのか、分からないんだけど...」
「えっと、三日後の問題を解決しに来たんだけど...」ミライは言い淀む。
「三日後には何が起きるの?」
「三日後には何も起きないの...」
「何も起きない...?」
「何も起きないって言うのはジーサンの回りで何も起きないの。それで未来のジーサン
は大変な目にあっちゃうの...」
「つまり、僕が気付かないところで問題が起きて、それで僕は将来その気付かなかった
事件が原因の問題に巻き込まれるってことなのかな...」
「うん...それであたしはその気付かなかった事件を気付かせて来いって言われたんだけ
ど、ジーサンは三日後に何か起きるようなことしてる?」
「え、いきなりそんなこと言われてもなぁ、心当たりはないよ」
 ミライは時三の前に回りこむ。
「なら、三日間、ジーサンの回りをあたしが調べて見るね」
「うん...まぁ、未来の僕が解決しに来た問題なら受け入れるよ。僕に何かできることは
ある?」
「んーいつも通りに生活することかな。あとあたしはジーサンの親戚ってことで」
「わかった、それじゃあ今日はもう帰るね」
 ミライは時三の前に回りこむ。
「私帰る場所...ないの...」
「うわっやめろ! そんな子犬みたいな目で見るな! すごい持って帰りたくなるじゃ
ないか! く! なんだ! この込み上げてくる感覚! 何もしてないのにすごい!」
「お願いぃー...」ミライは両手を前に出し祈るようにお願いする。
「いきなり、さっきの計画破綻してませんか、これ......って重っ!」
 ミライは帰ろうとする時三の腕にしがみつく。
「家に親いるし...無理だよ...いきなり知らない女の子連れてきて未来変わっちゃうでし
ょ!」
 ミライはその一言を聞き口をニヤリと歪める。
「ふっふっふ。ジーサン、あたしは未来から来ているって事を忘れちゃあいない?」
 時三は、しまったと漏らす。
「おじいちゃんは学生時代から親が二人して海外に出張に行っているから一人暮らしな
んってねぇ」
「ぐっ...」
「さらに他にも色々聞いているんだよー...」
「いったい何を...」
「机の! 一番下の引き出しを! はずして隠されたプラスチックケースの中に!」
「はい! 一名様ご宿泊です! はい! 本日は当店にお越しいただきありがとうござ
います! 精一杯御もてなしをさせていただきます!」

「おっ邪魔しまーす」
 時三は玄関で靴を脱ぎながら一つ大きなため息をつく。
「どうしたの? こんなかわいい女の子が家に泊まりにきたんだよ。もっと喜んで良い
んだよ?」
「どのスピーカーから出てんの、そのノイズ」
「まぁまぁ、そう怒らないであたしをただのロボットだと思わないでよ」ミライは踏ん
反り返り胸を張る。
「僕は晩御飯作るから、そこらへんに座っていてよ」
「え? ジーサン料理するの?」
「するよ」冷蔵庫から食材を取り出しまな板の上で刻む包丁の仕草は手馴れたものだっ
た。
「一人暮らししているんだから料理できなきゃ生活できないでしょ」
「そんな...ジーサンご飯作れたんだね」
「馬鹿にしてんのか!」
「おおっと包丁を握っている時はキッチンから離れないでよ! 危ないじゃない!」
「あぁ...とんでもないのがやってきちゃったなぁ...」まな板から野菜を刻む音をたてな
がら悪態をつく。
「こんな時代もあったんだなぁ」
 ミライは時三の後姿を見て未来での時三との生活を思い出していた。

 晩御飯を食べ終え食器を片しながらふと時三は漏らす。
「ねぇ、普通に晩御飯食べていたけど、ロボットってご飯食べるの?」
「? 食べるよ」
「生活面はどこまで人間と一緒なの?」
「んー、ほとんど人と同じ生活送れるよ。でも家庭によるんじゃないかな。ただ家事手
伝いして欲しい家もあれば生活を共にしたい人もいるらしいし」
「ミライはどこまで人と同じように生活してたの?」
「未来のジーサンはあんまり家事をしなくね。それで家具が誇り被らないようするため
にあたしはほとんど人と同じ生活だったよ」
「じゃあ、別に何か特別なことはないのね」食器を洗い終え時三はバスタオルと着替え
を持ってミライに聞く。
「大丈夫だよ。あ、お風呂入るの?」テレビを見ていたミライは椅子から立ち上がる。
「うん、あ、空いたら言うからテレビ見ててもいいよ」
 時三は洗面所で上着を洗濯機に放り込むと横でミライが服を脱ごうとしていた。
「はい止まってー。なんで洗面所で服脱ごうとしてるの」
「え、お風呂入るんでしょ?」
「僕がね...」
「え、一緒に入らないの?」
「え、何、もしかして未来の僕は一緒に風呂入ってんの?」
「うん、お風呂はいつも一緒に入ってるよ」
「とんでもない変態だね...」
「ジーサンそれ、自分のことだよ」
「まだ、僕は変態じゃないよ。それとミライ、お風呂は一人で入るものだよ」
「えぇ、でも未来のジーサンは背中を流してあげたら喜んでたよ。あっ、ジーサンの背
中も流してあげよっか?」
「い、いや、いいよ!」相手はロボットだとわかっていても容姿は同世代の女の子。時
三にとって刺激が強すぎだった。
「えぇー遠慮しなくていいのに...」
「いやそこは遠慮させていただきます。僕まだ若くてそんな余裕のある人格じゃないよ
...いっぱいいっぱいだよ」
「なーんだ、じゃあ一緒に入らないんだね...」
 時三に背を向けうなだれ元気のなくなるミライの姿に罪悪感を覚える。
「じゃあ.........入る?」
 その一言を時三が口にした瞬間ミライは、にやける。
「あぁ、やっぱり変態さんだぁ」
「こいつ...! ハメたなぁ! 一緒に入っているとか嘘でしょ!」
「いやいや、入っているのは本当だよーんだ」
「えぇ! もういいよ変態で、だからとりあえず一人で風呂に入らせてよ!」
 怒りより懇願に近い叫びが洗面所に響き渡っていた。

 ミライが風呂に入っている間に時三は親がいなく使われていない部屋にミライの分の
蒲団を敷いておく。
「はぁーロボットってもっと機械的なのかと思ったよ...」
 一人ため息をつきながら時三は何か起きないように先手を打つ。
「うわっすっごい埃だ...」
 時三は部屋の窓に蒲団を垂らし叩く。
「ジーサンーここに置いてあるパジャマ着ていいのー?」
 洗面所からドライヤーの音とミライの声が聞こえてくる。
「それ着ちゃっていいよー」
 時三は叫びながら蒲団を適当に叩き急いで蒲団を敷く。
「これでいいや......ミライ! 僕の隣の部屋に蒲団敷いて置いたからね!」
 洗面所からは返事がないがすでに眠い時三は自分の部屋の電気を消し蒲団に潜り込む。
「.........」
 眠りやすい体勢になるため寝返りをうつとミライが寝ていた。
 時三は考えるのやめてもう一度寝返りをうった。
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