mirai

1日目2

前のページに戻る/次のページに進む/もくじに戻る/
 ミライは時三に相談しようと放課後校門の前で待っていた。その待っている姿は学生
達から浮いていた。ミライは商品だ。ある程度の容姿をもつ。さらに同い年くらいの少
女が私服で校門の前にいることで拍車をかけていた。
 ミライは時三が玄関から出るのを見つける。
「ジーサン! こっち! こっち!」
 手を振って存在を示す。すると時三は早足でミライに近づく。
「ちょっと待って! 授業参観に来た母親じゃないんだから! なにその、元気っぷり
のアピールは!」
「いやぁ随分とおかしな事態になりまして...」
「ミライがここに来ている時点でおかしな事態だよ!」
「いや首が取れることの方がもっとおかしな事態かもよ?」
「はっ?! ちょっとまって! それは絶対やるなよ! いいか! 絶対やるなよ!」
「すごい振りだね、ジーサン」ミライはニヤリと口元を歪め、頭に手をかける。
「違うよ!」時三は慌てて首に手をかける。
 頭に手をかけるミライと首に手をかける時三が異様なコントをしていると。
「時三君...誰?」
「!!」その声を聞いてミライは首を落としそうになる。
 その消え入りそうな声。長い髪。確証はない。しかし、ミライは確信した。
「あぁ、この子はミライって言うんだけど、えーっと、学校が休みで家に泊まりに来て
いるんだ...」
時三は慌てて首から手を離し、その女の子の方に向きなおす。
「......」女の子を見つめる形でミライは少し時間が止まっていた。
「......そうなんだ」女の子もミライを見つめる。
「なに? どうしたの二人とも?」見つめ合う二人を見て時三は困惑する。
「......ん、あぁ! ごめんごめん! いやーあまりにも可愛い女の子だから見惚れちゃ
ったよ!」
 静寂を破ったのはミライだった。いつまでも話す様子のない女の子に気まずさを感じ
時三はお互いの紹介をするよう促す。
「私は...不動愛。...よろしく」
「あたしは、ミライだよ。よろしくね!」
「ジーサンと愛はいっつも一緒にいるの?」ミライは適当に話題を振る。それに時三が
答える。
「そうだね。考えてみると結構一緒にいるね。遊びに行ったりとかはしてないけど、席
となりだし、帰り道も途中まで一緒だし」
「いいなぁ、あたしも愛みたいな子と学校で過ごしたいなぁ」
「え? 私と...?」話を振られるとは思ってなかった愛は豆鉄砲を喰らった様な顔をす
る。
「ジーサン変態なんだもん」
「昨日今日で何が分かるの...」
「えぇ、だって昨日お風呂の時...」
「ちょっと待って!」
「時三君って変態なの?」
「待って愛、そこだけ乗っからないでよ! 僕は変態じゃないよ!」
「変態でジーサンなんて変質者だよ...」
「待ってよ! ミライが言い出したんでしょ! 変態でもないし! ジーサンってあだ
名だけどじいさんじゃないよ!」
「私は変態だけで良いと思う」
「え! 愛、何言ってんの?!」
 三人の声が帰り道をにぎやかにしていた。
 時三は初対面の二人が心配だった。ミライの押しの強い性格と愛の引っ込み思案の性
格では気が合わないのではないのかと。しかし、それは杞憂だと感じさせてくれる帰り
道になった。

「私はここで...」
愛は時三達とは逆のほうに歩いていく。じゃあねと挨拶し愛と時三は別々の家路に着く。
「愛ちゃん、おとなしそうでかわいい子だね。」
「見た目はあんな感じだけど、結構変わっているよ」
「いやー、ジーサンだってなかなかだと思うよ」
「お前に言われたくないよ!」
 ミライは昨日の写真のことを相談しようとしていた。しかし、愛がいるために、写真
のことを切り出せないでいた。
「あ、それで相談することがあるんだけど」
「ん、どうしたの?」
 時塔公園が見えた頃、ミライは昨日の写真のことを切り出す。
「僕が消えた?」
「ほら、昨日見たとき写真には二人写っていたのに...」
「ミライしか写ってない...」
「どういうことなんだろ?」
「......多分だけど、現代での行動が未来に影響が出たってことなんじゃないか」
「ってことはやっぱり事件の関係者に見られたとか...」
「そうなるね、関係ない人だったら僕は写真から消えないと思うし...。昨日の会話が聞
かれていたのかぁ...」
「でも、あたし回り見てたけど...誰もいなかったよ」
「これさ、もしかして未来に帰っても僕はいないんじゃないの?」
「はっ、じゃあ、事件を解決しないと帰っても居場所がないってことじゃない...」
「そうだね...。僕がいないとミライは誰のロボットでもなくなるしね。でもわからない
よ。今まで誰も踏み込んだことのない領域だから案外ミライのいた未来に帰れるのかも
しれない」
「うーん。どうなるか分からないし。しかもタイムスリップするためのエネルギーがあ
と一回分しかないんだよね...」
「それじゃあ、確実な方法で行くしかないね」
「でも写真からジーサンが消えたのにあたしはここにいるのは何でだろう?」
「...まだ、未来は変えられるってことなんじゃないか」
「そうかもね、動けるなら動かないと! まだ未来はわからないよ」
「未来から来た奴が言う台詞じゃあないよ」
 時三は笑いながらミライに突っ込みを入れる。
「で、ミライは普通について来ているけど」
「お世話になります」
「最初っから泊まるつもりかよ」
「いいじゃない、一緒の布団で寝た仲なんだから」
「その誤解を招くような言い回しはやめてください。あと布団は別々! 昨日蒲団用意
したのになんで入ってきてんの!」
「あたしはただ...一緒に寝たかっただけなのに...」
「うわっやめろ! 涙目になって俯くな! 僕がすごい悪い奴みたいじゃないか! 
く! なんだ、この込み上げてくる罪悪感! 何もしてないのにすごい!」
「ふっふっふ、女の子を泣かしちゃだめだぞー」
 涙目になりながら口元をニヤリと歪める。
「この子! ひどい! 嘘泣き! コワい!」
「でも、一緒に寝たかったのは本当だよ」
「えぇ?」
「ジーサンが嫌なら、あたしは大丈夫だよ」
「え? いや、別にいやってわけじゃないんだけど、なんていうか落ち着かなくて、な
ぁ」
「ふふ...さすが思春期」
「うっ...とりあえず、目から出ているのを拭けよ」
「あ、これすごいでしょ! いつでもね、涙出すこと出来るんだよ! あんまり大きな
声で言えないけど、ロボットでもたまにミスしちゃうんだよねー。でもこの涙が武器に
なるのよ! ...うっ...ほら...」ミライは一瞬俯きゆっくりと涙目になった顔を上げる。
「お願い...一晩だけでいいの...」
「ちっくしょー!! 思春期なめんなあぁ―...!」叫びながら時三は家まで走り出す。
「やりすぎちゃったかな...ははは」涙目のままミライは苦笑いを浮かべ時三を追いかけ
る。

「ジーサンごめんねー」
 ミライが時三を追いかけるとリビングの隅で小さく体育座りをしていた。
「どうして、ロボットなのに...そんななの」
「ロボットみたいなこと......あ、出来るよ」
「......何が出来るんだよ」
「えーと A、B、C、...あとDのどれがいい?」
「え、...じゃあDで」
「じゃあええっと、...いい天気だ...って言えばいいの」
「いい天気だ...」
 時三は半分の期待と半分の疑問を胸にその言葉を吐いた。
『D―モーション作動』
「え」
 突然ミライから女性のアナウンスが流れる。すると突然ミライが時三に向かってラリ
アットを放つ。
「あっ...あっ...」
 咄嗟に伏せて皮一枚でラリアットをかわす時三。風が時三の髪をなでる。
「もう、いいよ! もういいっすよ! 何?! D―モーションって何?!」
「D―モーションって言うのは人に危害を加える行動なの。で、他の三つも制限されて
いて音声認証がないと出来ない行動なんだけど...ジーサンでも認識できたんだね...出来
ないと思ってたよ。なんかごめんね」
 本当はもっと制限され威力の弱く設定してあったが未来で時三が三週間も相手してく
れないことに少々腹を立てていたミライは自ら威力を高めに設定し直していた。
 ミライは伏せる時三の腕を掴み起き上がらせる。
「その機能、いらなくない?」
「本当は持ち主を守るための機能なんだけど、実際に問題にはなってるね。大きな事件
は起きてないけどそういうことが起きるのではないかって危惧されてるよ」
「ミイラ取りがミイラになっているわけなんだね...。僕も今の喰らっていたら病院送り
にされてたんじゃないの...」
「あぁ...、まぁ...、それは...ごめんなさい...」
「その機能は未来の僕が設定したの?」
「うん、目覚ましに使ってるよ」
「あれを目覚ましに使ってるの...」
「あれじゃなきゃ、目が覚めないって」
「いや、あれ喰らったら多分永遠に起きないと思う...」
「じゃあ、弱めに設定しておくね」
「そういう問題じゃないけど...まぁ弱めにしておいてよ。何かあったらイヤだから」
「何かって何よ」
「今みたいな事態」
 言い出したのは僕だけどねと小さな声で付足したが耳に届く前にミライは虫の居所が
悪そうにそそくさとキッチンに逃げていく。
 時三は心の中で勝った...と呟き、リビングを後にし風呂を掃除し始めた。

「あれ、ミライは食べないの?」
 時三はミライの作った焼き魚に手をつけようとしたがミライの座るテーブルの前には
箸も茶碗も皿もなくあるのは栄養ドリンクらしきものが一本だけだった。
「あたしはこれで大丈夫だよ...」
「どうしたの、食欲ないの? ロボットに聞くのもヘンだけど」
「別に大丈夫だもん...」
 ミライは時三と目を合わせようとせず栄養ドリンクらしいものをストローで吸ってい
る。
「何? もしかしてさっきのことでいじけてんの?」
「違うよ。あたしは今反省しているの」
 その反応の早さともう一つの焼き魚がキッチンに置いてあることから時三はすぐにミ
ライがいじけていることがわかり笑みがこぼれる。
「じゃあ、ミライの分ももらっちゃうよー」
 時三はミライの分の焼き魚の皿を自分のところに持っていこうとするとミライの目が
焼き魚追いかける。
「素直に食べなよ。別にさっきのラリアットはもう気にしてないから」
 時三は笑う。
 するとミライはお預けからよしと言われた犬のような早さで食器にご飯をよそい、焼
き魚に大根おろしと醤油をかける。
その姿はご飯を前にした人と何も変わらない姿だった。
前のページに戻る/次のページに進む/もくじに戻る/
inserted by FC2 system