mirai

2日目2

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「どこだー...ジーサン。あ、愛!」教室で弁当を食べる愛の姿があった。
「えっとミライちゃん...どうしたの?」愛は目を丸くし驚いている。
「お弁当届けに来たの」
「あ、でも時三君...食堂に行っちゃったよ」
「えぇ...せっかく持ってきたのに...。いいや、あたしが食べちゃおっと。ジーサンの机
ってどれ?」
「私の横だよ」
「ほいほい、じゃあ愛の机とくっつけてっと」ミライは持ってきた弁当を広げる。
「いっただきまーす。...ん、我ながら良く出来ている」ミライは自画自賛をしていると。
「時三君のお弁当、ミライちゃんが作ったの?」
「そうだよ、でもジーサン料理できるんだよね、びっくりしちゃったよ」
「...一緒に暮らしているんだっけ...?」
「一緒に暮らしているっていってもちょっと二、三日お邪魔しているってだけかなー。
あたしも時尾って言うから遠い親戚なんだ。それで用事があってここら辺に来たからお
邪魔しているの」ミライは前もって、時三と口裏あわせで用意していた嘘を吐く。
「そうなんだ...」
「あれ...もしかして、ちょっと妬いちゃった?」
「そんなことは...」
「ふふ、もしかして愛はジーサンのことが...」ミライは意地悪く口をニヤリと歪める。
 愛は箸の手を止めて赤面し俯いてしまう。
(やっぱり、愛はジーサンのことが好きなんだ...。じゃあどうしてあんな未来になって
いるの?)
 ミライはスカートのポケットから、写真を覗かせる。写真に写っているのは狭いアパ
ートの壁とミライだけだ。
(あたしがジーサンに接触したことが原因になっているのは確実で愛に関わることって
いったら恋愛関係かと思ったんだけど...。それともあたし以外に何か原因があるのかな。
今回の原因はあたしだったけど、あたしがいなくても起きること...。あぁそうか現代に
来てなくてもおじいちゃんは襲われる。じゃあ、あたしの接触も原因の一つってことか
...。他の原因もなくさない限り写真の中はひとりぼっちのままだ)
「...愛とジーサンは付き合ってないの?」
「私と時三君は、あの、ただの、友達だよ...」語尾が小さくなり愛も小さくなっていく。
「もう、がんばれ! あたしは愛のこと応援しているからね!」
「あ、ありがとう...」
 昼休みの終わりをチャイムが告げる。生徒はチャイムを合図に動き出す。愛とミライ
は机の位置を元に戻す。
「ミライちゃんってクラスどこなの?」
「あーあたしここの生徒じゃないよ」
「えっじゃあどうやってここに来たの?」
「制服買ってきて昼休みなら入れるかなぁって」
「すごいことするんだね...」
「弁当届けたかったし、愛ともおしゃべりしてみたかったしね」
「全然友達いないから私と話してても楽しくないよ...」
「んーまぁお話してても確かに楽しくないかもね」
「うん...」
「でも、愛はとっても純粋でやさしそうだし。あたしは話しかけたくなっちゃうけどね
ー。楽しいおしゃべりなんてこれからできるようになればいいんじゃないの。相手のこ
とわかってくれば、何が好きかとか分かるんだし」
「うん...がんばる」
「じゃあ、あたしはそろそろ、帰りますか」
「帰りはどうするの?」
「昼休み終わるまでトイレにいるよ。授業始まれば、校門からでも出れると思う」
じゃあねと挨拶してミライは教室を飛び出す。愛は次の授業の準備をする。
「あっお前なんで―――」
 廊下を駆け抜けるミライを見て時三は声を上げる。
「時三君、お帰り」
「なんでミライがいたの?! しかも制服姿...!」
「なんで制服のところ強調しているの?」
「なんとなく、愛は分からなくて大丈夫だよ。で、なんでミライがいたの?」
「時三君がお弁当忘れたからそれを届けにきてくれたんだよ」
「えぇ!! じゃあ食堂行かなくて良かったね...」
「ちょうど入れ違いだったみたい」
「で、お弁当は?」
「あ、ミライちゃんが食べて帰ったよ」
「...ミライは何しに来たんだろ...」
「お弁当を届けに来たんだよ」
「弁当は?」
「ミライちゃんが食べて帰ったよ」
「...ミライは何しに来たんだろ...」
「お弁当を届けに来たんだよ」
「弁当は?」
「ミライちゃんが食べて帰ったよ」
 しばらくループする二人だったが昼休みが終わり次に授業が体育だということを思い
出す。
 昼食を食べ気持ちの良い陽気に時三は欠伸をする。
「まぁ次は体育だし、寝ることもないだろう」
「体育まで寝たらもうグランドスラムだよ...」
「さすがに体育は寝ないよ」
「...」
「うわっやめろ! そんな疑うような目で見るな! すごいやらかしそうになるじゃな
いか! く! なんだ! この込み上げてくる感覚! 何もしてないのにすごい!」
「時三君、すでに二限、三限、四限でやらかしているよ」
「うっ、今日の愛は厳しいな...」
「厳しくなんかないよ。時三君がいつもより駄目なだけなんだよ」
「まぁまぁ。次体育なんだから早く着替えないと遅れるよ。それじゃあね」女子は教室
で着替えるため時三は逃げるように教室から出て行く。
「あ、まって...もう」教室は女子だけになり愛も急いで着替えグラウンドに向かった。

 体育の授業がなぜあるのか? 体育の授業中、愛はいつもそんなことを考える。マラ
ソン、バスケ、サッカー、テニス、ソフトボール、バトミントン、卓球。やりたいひと
がやればいいのに。いつもそんなことを考える。
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
 テレビに出てきそうな学校近くの川原を走る。運動音痴の愛は下位集団のさらに後ろ
を走る。
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
 息が上がり空を仰ぐように息をする。自分の前を走る運動着姿の学生を見る。
(なんで、あんなに、早く、走れるの、だろう)
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
前を走っているのは下位集団といっても手を抜きゆっくり走っている集団なのである。
友達同士しゃべったりふざけながら走っている。
(なんで、手を抜いて、走って、いるのに、あんなに、早く、走れるの、だろう)
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
(私なんかじゃ、私なんかじゃ、ダメなのか、なぁ)
 今朝のことを思い出す。手紙を渡す、そんなことも出来ない自分が許せなくなる。
ムシャクシャしてきた愛は我武者羅に走り出す。ペースなんか気にしないで今ある体力
を搾り出す。
「はぁ、はぁ、はぁ」
(私だって...! 私だって...!)
 汗ばんでいた顔に汗がさらに滲み出る。汗で顔がクシャクシャになる。
 前を走っていた集団に見られる。普段、目立つことが良いとは考えていない愛だが今
は関係なかった。
 ただ変化が欲しかった。今は目的を忘れて手段を求めた。
 しかし普段走りこんだり、散歩はしているものの外で体を動かさない愛の体は意識と
は別にブレーキを徐々に踏み込む。
 ゴールに着いてみれば結果はいつも通りの順位。意識を変えていつもよりはりきった
ところで結果は変わらなかった。
 体育の授業での出来事でさえ今は全部繋がっていると思えてしまっていた。
 授業が終わり、六時限目の準備をする。時三は体育の授業で疲れたのか着替えが終わ
り、教室に戻ってくるやすぐに机に突っ伏し顔を上げる。
「はぁー放課後、委員会の集まりだよ...」
「時三君なんだかんだ言って真面目だよね」
「僕はいつだって真面目だよ」
「そうだね...」愛は体育の疲れもありスルーした。
「愛は先帰っていてくれー...」時三は再び机に突っ伏す。
 チャイムとともに教員が「早く着替えろ」と声を張り上げ授業が始まる。
 六時限目の化学なんて頭に入ってこない。愛はボーっと教訓を眺める。時三に渡すは
ずだったモノはまだ鞄の中にある。
 しかし、ソレを渡すことが現実離れしているように思えてきた。何をやってもダメな
気がしてならない。そんな感覚、空気に囚われていた。
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