mirai

2日目5

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「晩御飯は焼きそばになりました」ミライは器に焼きそばを盛る。
「おぉ、いい香りじゃないか、しかもフライパンに麺がこびりついてない...すごい...」
「ヘルパーロボットなめないでよねー」いただきます、と二人で焼きそばを突っつく。
「お前、そういえば普通にご飯食べているけど、どうなっているの?」
 食べかけていた焼きそばを吸うとミライは答える。
「聞こえが悪いんだけど生ゴミとかがあたし達のエネルギーになるの。環境問題に対し
ても良いことで有名なんだよ」
「じゃあ、食費は人一人分かかるのか」
「いや、生ゴミエネルギーはあくまでおまけなんだ。より人間に馴染むためにあたし達
は食事をすることも寝ることも...そのトイレに行くこともできるの」
「すごいなぁ...ほとんど人間じゃないか」
「まぁ普通に町の中を歩いていると分からないけど、ロボットにはタグがそれぞれ用意
されているの」ミライは首に提げている、名前と住所が彫ってあるタグを見せる。
「あとうなじのバーコードかな...ほら、見える?」ミライは髪をかき上げると首にバー
コードがあった。
「この二つがロボットと人間の区別になっているの」
「へぇ、でも日常生活では分からないんだな」
「他のロボットに会った事ないから分からないけど、やっぱ違和感はあるらしいよ。そ
れに、関節のつなぎ目とか皮膚とか」
「つなぎ目...?」
 ほら、っと言ってミライは時三に腕の関節を見せる。
「あ、本当だ。うっすらと線が入ってるね」
「で、あたし達の皮膚は人工皮膚だから一カ月に一回整備しないといけないんだよね」
「しないとどうなるの?」時三はミライの腕を突っつく。
「段々、劣化していってボロボロになっちゃうねー」
「うわ、それは見たくないな...」
「二か月ほっとくと皮膚剥がれて中身が見えちゃうんだから」
「それはちょっとグロテスクだね...」
「未来でも問題になってるんだよ。ロボットの不法投棄。いらなくなったからって山と
かに電源切って捨てちゃうの」
「ひどいことするんだね...」
「あたしたちは商品だから最後は捨てられるかもしれないけどちゃんと労わって欲しい
って思う。他のロボットはどう思うか知らないけど。ジーサンはどうするのかなぁ?」
「ぼ、僕は捨てたりしないからね」
「そう言ってくれると思ってましたー」
「ミライは捨てられたらいやだろう?」
「うーん、でも捨てざるを得ない時は思い切って捨てちゃってくれた方がいいよ。捨て
るっていってもちゃんと工場だよ。あたしたちのせいで迷惑かかってたら本末転倒だも
ん」
「うーん、どうなんだろう...。僕はそう言うので捨てるっていうのはなんかイヤだなぁ」
「ジーサンは今の時代の感覚だからだと思う。ロボットが普及しだすと、あたしたちの
時代はロボットは当たり前、日常用品だよ。今の時代で言うと新しい携帯が出てきたか
ら買い換える。そんな感じかなー」
「うーん、納得できない問題だなぁ...」
「まぁ今は気にしなくていい問題だよ! あ、焼きそばまだ食べる?」
「あ、もうちょっともらうね」
 ミライは時三の皿に焼きそばを盛る。
「あ、そう言えばお昼学校から帰った時、時塔学園の生徒なんだけど、かなりの大男だ
ったんだけど...」
「かなり大男?」
「そうそう」
「うーん今日出席取ってた時いない生徒いたからもしかしたらだけど...森本さんかな
...」
「明日からちゃんと学校行くぜ! って言ってたよ」
「二か月も休んでいるいたから、存在感なかったからすっかり忘れてたよ」
「名前は森本っていうの?」
「うん? 下の名前は何だったっけ? 覚えてないや」
「森本っていうんだ。あの人結構変わっているよねー」
「ミライも中々変わってるけどな。まぁあの人も実際変わってるけど」
「森本さんはとっても前向きな性格で良い意味で変わってるってことだよ。なんだろ愛
と足して二で割ったらちょうどいいかも」
「すごい極端な性格になりそうだね...」
「それにしてもミライとしゃべっていても、違和感ないなぁ。普通に世間話できるし」
「おじいちゃんのおかげだね。未来でしっかりあたしのこと世話してよね」
「ヘルパーロボットの世話ってなんかおかしいな」
「そうだよね! おじいちゃんやっぱりヘンだったんだよ。ヘルパーロボットに家事や
らせないんだもん」
「なにやってんだろうな...僕。まぁでも今のミライがいるのも未来の僕がヘンだったお
かげでしょ?」
「まぁそうなんですけど」
 二人はご馳走さまと合掌して食器を下げる。食器を洗い、時三はテレビを見ながらコ
ーヒーで一服する。ミライが先に風呂に入る。
「お風呂また一緒に入る?」ミライはバスタオルとパジャマを持って洗面所から顔を覗
かせる
「一緒に入ったことねぇでしょ!」
「ジーサンってえっちだけどえっちじゃないよねー」笑いながらミライは引っ込む。
「ったくもう! 未来の僕は何教えてんだ...」悪態をつき時三はテレビに視線を戻す。

 時三はミライが風呂に入っている間に蒲団を敷く。
「蒲団があれば僕のベッドに入ってこないだろう」
 時三はそう言って隣の部屋に敷きっぱなしだった蒲団を自分の部屋に敷く。

 ミライは風呂から出る。洗面所の鍵を閉める
 ミライはドライヤーで髪を乾かし鏡を覗く。
 鏡の向こうでは無機質な顔がこちらを覗いている。無機質な頬をつねる。
 鏡の向こうでは無機質な顔がしかめっ面になりこちらを覗いている。
 鏡の向こうでは無機質な顔がこちらを覗いている。体の各部をつねっていく。
 鏡の向こうでは無機質な顔がしかめっ面になりこちらを覗いている。
 鏡の向こうでは無機質な首からぶら下がるタグが水を滴らしている。

 右手を上げる。
 左手を上げる。
 視線を左に。
 視線を右に。
 視線を下げると鏡の向こうにタグが見える。

 親指を動かす。第一関節から第二関節。
 人差し指を動かす。第一関節から第二関節。
 中指を動かす。第一関節から第二関節。
 薬指を動かす。第一関節から第二関節。
 小指を動かす。第一関節から第二関節。
 胸元に手を動かすとタグが手に当たる。指に絡む。

 腰を捻る。
 首を捻る。
 腕を捻る。
 手首を捻る。
 脚を捻る
 胸元からタグのこすれる音がする。

 手の平で頭をなでる。
 手の平で頬をなでる。
 手の平で首をなでる。
 手の平で体の各部をなでる。
 手の甲にタグが当たる。

 体内時計、エネルギー残量、使用メモリ、スケジュール、メディカルチェック

「...オールグリーン」

 鏡を覗くと無機質な顔がこちらを覗いている。
 
 時三が風呂から出てくる。
 一緒の布団では寝かせないがベッドの横に布団は良いと言った。
 少しテレビを見てそれぞれ布団に入る。

 電気を消して暗闇が部屋を包む。
 目を開けていても暗闇、閉じても暗闇。
 時計の秒針が部屋に響く。
 気になりだすと余計に響く。
 
 時三の寝息が聞こえる。
 寝ているのか、起きているのか、寝ようとしているのか。

 布団の中は温かい。
 やさしい温かさ、怠惰の温かさ。
 布団から出たくなくなる。

 今日までの出来事を思い出す。
 まだ二日しかたっていない。
 長く感じる。でも愛や時三といた時は短く感じた。
 明日で三日目。ジーサンと愛がギクシャクする日。
 なにがあったんだろう...。
 結局決定的なことが分かったわけではない。
 でも、愛がジーサンを嫌うことはないと思う。
 ジーサンも愛を嫌うことなんてないと思う。

 ...今、何分経ったんだろう。
 もしかしたら、もう何時間も経っているんじゃないだろうか。
 
 静かになって暗闇になって、情報が入ってこないと色々な情報が溢れてくる。
 ジーサンはまだ起きているだろうか。
 ちょっとベッドに潜って驚かせよう。

 布団を抜け出しベッドに入る。
 ジーサンは起きない。
 つまらない。このまま寝ちゃおう。

「...おやすみなさい」

 時三の顔を覗くと気付く様子もなく寝ている。
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