mirai

3日目1

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目が覚める。トラックのエンジン音。すずめの鳴き声。
「ん...」
(今何時だ...)
 目覚ましで目が覚めるのがいつものことだがたまに早く目が覚めてしまうことがある
し、遅れてしまうこともある。
 手探りで目覚ましを探す。
「五時半か...。まだ寝れる...」
 意識が少し覚醒してきて布団が無くなり少し寒気がするのに気付く。
「布団どこだ...」
 寝返りを打つ。
「ちょっと...なにやってんの」
 すぐ横にはミライが時三の布団を被って寝ていた。
「落ちろ...」
 ミライを転がすようにベッドから落とす。ついでに布団もかっさらう。ぐぇ、という
音が聞こえたような気がしたがすでに二度寝を始めている時三の耳は聞こええないフリ
をした。

 目が覚める。バイクのエンジン音、カラスの鳴き声、ミライの顔。
「先に言っておくよ。僕は朝がすごく弱いんだ。特に寝起きね」
 時三は目をこすりながらミライを見る。
「悪いけど今日は動じないよ」時三は寝返りを打ち逆を向く。
「ジーサン、今日は本気と書いてマジで行こう」
「え? あぁそうだねぇ...」
「ちょーっと! そこ寝ない。今日が運命の分かれ道って未来のジーサンが言っていた
んだよ! 聞いてるの! おーきーろー」
「まぁ今日何かあるって言うのは初日に聞いていたから別にいいんだけど。何が起きる
んだろうね」仰向けになり時三は目を瞑る。
「うーん。今のところ何もないけど。多分学校で何かあるんじゃないかな」
「どうだろうね...もしかしたら僕たちが寝ていた今日の午前中に終わってましたってこ
ともあったかもしれないよ?」
「えっ何か心当たりあるの?」
「いやぁ...何もない」
「やめてよー心臓に悪いから」ミライはそっとため息をつく
「いや心臓ないでしょ」
「開いて見てみる?」
「いやいいよ...」
「つまんなーい」
「いや胸開いても楽しいことなんて無いでしょ。中から鳩でも飛び出すの?」
「出ないけど...」
「ほれみろ」
「あ、でもちく―――」
「おーっともういいよー。ビームだろうがなんだろうがそこはいい」
「早く顔洗ってきてね。もうご飯出来てるから」ミライは部屋から出て行く。
 目が覚めると朝ごはんの良いにおいがしてくる。
(あいつがいると僕やることなくなるな...)時三は洗面所で顔を洗う。
(これじゃ料理しなくなるよなー)制服に着替えながらロボットの便利さとその弊害に
ついてなんとなく考えながらリビングの良いにおいに誘われる。
 台所を見ると、きびきびと弁当に料理を詰めている。
(なんかもう僕いらなくない...?)なんとなく情けなくなる。
「あ、先食べててよ。弁当詰めたらあたしも食べるから」
「うん、ありがとうね、弁当」
「ふっふっふ、あたしからすればこれは当たり前のことなのです。お礼を言ったって何
も出ないよ」
「はいはい」
 時三は朝食に手をつける。鮭の切り身に豆腐の味噌汁、ご飯に納豆。
「とっても朝食だね」時三は鮭の切り身に手をつける。
「ジーサンは朝いつも何食べてるの?」
「水...かな」遠くを見るような目で答える。
「ジーサン、それは食べるって言わないかも。飲むって言うのかも」
「いや水って一括りにしているけど家の水と学校の冷水機だと全然違うんだよ!」
「なんでそんな水にこだわっているの。今は世紀末じゃないんだから...」
「うるせぇー、僕が弁当作ると時間かかるんだよ」
「昨日の晩御飯詰めるだけの弁当だからってギリギリに起きているから時間ないんでし
ょう。余裕を持って起きればいいじゃない」
「僕は限界まで寝ていたいんだ!」
「なんか、ダメ人間みたいだよ」
「あぁ、ダメ人間さ! うまい! うまい!」食べながら器用にしゃべる時三。
 ミライは弁当を作り終えエプロンを椅子にかけて、朝食に手をつける。
「相変わらずロボットに見えないよなぁ」
「見えちゃダメなんだって...人間に馴染むロボットだもん。まぁでも、ずっと見てれば
慣れてロボットと人間の区別はつくようにになるよ」
「んーまぁ当分はいらないスキルだよね」
「二十五年後までお待ちくださいね」
「うわっネタばれ」
「あたしはもう二年前の型だからなぁ」
「じゃあ三十年前から来たから二十八年後か、ミライに出会うのは。最新のって何が変
わってるの?」
「新しい子はどんどん軽量化と小型化が進んでるね。あたしの身長は百六十くらいだけ
ど最新のは百四十から百五十くらいだったかな?」
「あれお前体重は?」
「あまりそういうこと聞かないほうがいいよ。愛に、あれお前最近太ったんじゃないの
か? とか聞いたりしてないよねぇ」
「き、聞いてないよ! ...多分」
「なんてデリカシーのない人なの! 愛がかわいそうだ!」
「話がすり替わってない。お前の重さを聞いてたのに愛は関係ないよ」
「うっ! 冷静に返された...」
「で、重さは?」
「百五十くらいかなー...」
「え、体重だよね...」
「もう! いいでしょ! あんまり聞かないでよ! ほら食べ終わったら食器下げて
ね」
 ミライは話題を終わらせるようと促す。
「ごちそうさま、おいしかったよ」
「あったりまえよぉ! まだまだこんなの序の口なんだから!」
「さすがメイドロボット」
「ヘルパーロボットだからね。あ、そろそろ行く時間じゃない?」
「そうだね、鞄取ってくるよ」
 時三は学校の鞄をとりに自分の部屋に戻る。鞄に筆箱などを入れリビングに戻ると。
「わぁ制服姿だぁってなんでお前も制服着てんの...」
「いやあたしも今日は行こうかなって」
「いやいやいやいや、まずいって」
「でも何か起きた時にすぐ動けるよ!」
「いや学校の中で起きたことは僕が何とかするから、ミライは学校の外で何か起きたら
よろしく頼むよ」
「なるほど! さすがジーサン!」
「なにが、さすがかは聞かないで置くとして、昨日も言ったけど何か起きたら電話する
から家で待機!」
「...うん、了解!」
「で、その制服どうしたの? まさか、昨日の服代それに使ったの...?」
「いやー愛に接触するために仕方なかったんですよー...。ほらジーサンも弁当忘れてた
し、届けなくちゃって...ね」ミライはごまかすように笑う。
「まぁ別にいいけど...」
「ほら! 時間無くなっちゃうよ! じゃあ、いってらっしゃい!」ミライは早く学校
行くよう催促する。
「押すなって、靴、はけないだろう」
「あ、ごめんごめん」
「それじゃ、行ってきます」
「ほい! いってらっしゃい」
 ミライに送り出され時三は学校に向かう。
 時三は未来のことを考える。
 詳しいことを聞いてはいないが今日何かが起きることは聞いている。それが良いこと
なの良くないことなのか。
(ミライが現代に来ていることと事件やら問題やら言っている時点で良くないことなん
だろうなぁ...。良いことだったらわざわざ、未来から来る意味はないもんなぁ...)
 欠伸をしながら信号を待つ。
(何が起きたのか聞いてみようかな。そうすれば僕のことだったら分かるかもしれない
し。いやでも聞かないでおこう。その時わかるんだし)
 信号を渡り歩道をまっすぐ進む。徐々に同じ制服の学生が目立ちだす。
(ミライは愛のことを気にしていたなぁ。そんなに愛が関係してきたりするのかな? 
愛が何か事件起こしちゃうとか...ないなぁ。想像できないや)
 角をひとつ曲がり校門が見えてくる。校門をくぐり玄関から入る。
 靴を履き替えるため自分の下駄箱を目指す。
 もう一度欠伸をして自分の下駄箱を開けると。
「......あれ」
 時三の上履きが無かった。代わりに他人の靴が入っていた。
(なんだなんだ、新手のイジメかな?)
 時三は客用のスリッパに履き替え靴は下駄箱の上に置いて教室に向かった。
「おはよー愛」
「お、おはよう...」愛は俯いたまま挨拶した。
「なんかあったの?」
「えっ?! どうして?」
「いや、なんかいつもより元気ないというか、また眉間にしわ寄ってるし」
「だ、大丈夫だよ...ちょっと昨日寝るのが遅かったの! それで少しボーっとしちゃっ
てて!」
「んーまぁ、何も無いなら別にいいけど。じゃあ今日は僕が愛を起こす役目になるか
な?」
「私は授業中あまり寝ないから大丈夫だよ。時三君は何か無かった?」
「何かって?」
「え? えと......ううん、何も無いならいいの、なんとなく聞いてみただけ」
(もしかして、すでに何か起きているとか? そうなると上履きが無いのも何かの予兆
なのかな? 放課後に下駄箱で待ち伏せしてたほうが良いかも)
 その後愛との会話も無く、教員がチャイムとともに教室に入ってくる。
「静かにしろー! ...今日は欠席は...いないな。ホームルームは以上!」
 担任教師は出席を取ってすぐに解散した。
 何かあったのか考えながら時三は授業の準備をするが教師が何か問題を抱えても自分
らにはあまり関係ないと思いすぐに考えるのをやめる。
(それより一時限目は...)
「数学だと...!」
 結局時三は数学の授業中、夢の世界へ誘われた。
 チャイムの音で時三は現実に引き戻される。
「は! 僕はいままで何を...」
「あ、おはよう...ちょっとごめんね」
 愛は教室から出て行く。授業が終わり時三は目をこすりながら周りを見る。
(朝といい愛の反応がよそよそしい気がする。...考えすぎかな...。たまに噛み合わない
時もあるか)
 時三も顔を洗いにトイレに向かう。スリッパの乾いた音が休み時間を廊下でしゃべる
生徒たちの声に混じる。
(下駄箱になんで他人の靴が入っているんだろう? イジメだったら僕の靴になんか仕
掛けたり、上履きだけどこかにやったりすると思う。まぁイジメをする人の心理なんて
全然分からないけど...。こんな時期に自分の下駄箱を間違える人なんていない。多分森
本先輩かな...。あの人ずっと学校に来ていなかったし。でもなんで僕の下駄箱なんだろ
う...。何も無ければいいんだけど。あの人体大きくて怖いからなぁ...。)
 時三はトイレを出て校舎裏に出た。
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