mirai

3日目6

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「今日は野菜炒めです! さっさとできるものにしてみましたー」
「相変わらず、手際いいね」
「ふっふっふ、家事において右にも左にも出るものはあまりいないんだから!」
「はいはい、それじゃあ、いただきます」
 二人は合掌して箸をご飯に伸ばす。
「んー、おいしぃ!」
「自分で作って、自分で褒めるとは...」
「いやー、テキトーに塩コショウで味付けした割にはうまくいったね」
「ヘルパーロボットがそれでいいの?!」
「おいしくつくれればいいの」
「言っちゃったよ...この子」
 晩御飯を食べ終え食器を洗う。
 ミライは食器を洗う手を止め、手をグッパグッパと二、三回握る。
「......」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」

 時三が風呂からあがる。
「お風呂空いたよー」
 時三はミライに風呂が空いたことを伝える。
「ジーサンも一緒に」
「入りません。っていうか、あがったばっかりだから...」
「まぁお約束みたいなものだよー」
 そう言ってミライは洗面所に消えていく。
 時三は残りの三日間で何かできないか考える。
(明日は金曜日だし...。明後日どこか連れて行ってあげよう。みんなも一緒に誘おうか
な)
 風呂場からシャワーの音が聞こえる。
「......」
 時三はソファーに腰掛け、テレビをつける。
 別に見たい番組があるわけでない。
 静かにしていると重苦しくなってしまう。
 そんな気がした。
 ミライは風呂から出る。洗面所の鍵を閉める
 ドライヤーで髪を乾かし鏡を覗く。
 鏡の向こうでは無機質な顔がこちらを覗いている。無機質な頬をつねる。
 鏡の向こうでは無機質な顔が無表情な女の子がこちらを覗いている。
 鏡の向こうでは無機質な顔がこちらを覗いている。体の各部をつねっていく。
 鏡の向こうでは無機質な顔が無表情な女の子がこちらを覗いている。
 鏡の向こうでは無機質な首からぶら下がるタグが水を滴らしている。

 右手をゆっくり上げる。
 左手をゆっくり上げる。
 視線を左に。
 視線を右に。
 視線を下げると鏡の向こうにタグが見える。

 親指を動かす。第一関節から第二関節。
 人差し指を動かす。第一関節から第二関節。
 中指を動かす。第一関節から第二関節。
 薬指が動かない。
 小指が動かない。
 胸元に手を動かすとタグが手に当たる。指に絡む。

 腰を捻れない。
 首を捻る。
 腕をる。
 手首を捻る。
 脚を捻る
 胸元からタグのこすれる音がする。

 手の平で頭をなでる。
 手の平で頬をなでる。感触なし。
 手の平で首をなでる。感触なし。
 手の平で各部をなでる。
 手の甲にタグが当たる。

 体内時計、エネルギー残量、使用メモリ、スケジュール、メディカルチェック

「...アラートオフ」

 鏡を覗くと無機質な顔がこちらを覗いている。
 
 洗面所から出るとリビングからテレビの音が聞こえる。
 ミライはバスタオルを首から下げリビングのドアを開け中に入る。
「......ジーサン?...寝てるの?」
 時三はソファーの肘掛部分に体を預けるように寝ていた。
「......」
 ミライは静かに時三の横に座る。
「......」
 時三とは逆の肘掛に頬杖をつき、時三を眺める。
「......おっきろーい!」
 ミライは時三の方に頭を振って体重を預ける。
 ぐぇっという声が聞こえた気がした。
「......こんなところで寝ると風邪ひくよ、おじい...ちゃん」
「.........あれ、僕...寝てた......?」
「あ、起きた起きた。もう声かけても全然起きないんだからぁ」
「ごめん、それでミライ、どいてくれると嬉しんだけど...重い...」 
「これは、ソファーでジーサンが寝ないように罰ゲームを与えているの。だからまだこ
うやってるの」
「あのー罰ゲームはいつまで続くんですか...腕が...しびれてきた」
「ジーサンが反省するまで...」
「な、なにを?」
「愛に告白させたこと...」
「あぁ、まぁ...」
 時三は居所が悪そうに明後日の方見る。
「まぁ、僕はヘタレかもしれないね...」
「変態でジーサンでヘタレじゃあやっぱり変質者だね」
「ひとつ増えてるよ...」
「はい! 罰ゲーム終了! それじゃ蒲団敷こっか」
「あぁ、もうこんな時間かぁ」
 時三とミライは欠伸をひとつしながら部屋に向かう。
 ミライの蒲団を敷いて目覚ましをかける。
 時三は八時になる目覚ましを七時半にセットした。
「じゃあ、電気消すよ」
「うん」
 何も見えなくなる。真っ暗な部屋は沈黙に包まれる。
「ねぇ、ジーサン」
「何?」
「これからどうなるんだろうね」
「どうなるって?」
「ジーサンと愛だよ」
「僕と愛?」
「あたしのいた未来では時尾時三はずっと独身なんだよ。でも、もう違う未来に変わっ
た。写真にもジーサンと愛の二人の姿が写っていた」
「そうだね」
「どうなんだろうなぁ。ずっと仲良しでいるのかなぁ。たまには喧嘩もするのかも。ジ
ーサンって愛と喧嘩したことある?」
「喧嘩はないかなぁ。でも引っ込み思案だけどちゃんと止めてくれる時もあったなぁ」
「え、どんなことなの?」
 ミライからは興味津津と言った感じがよく伝わってくる。
「僕の入っている委員会さ。行くのが面倒臭くなってサボって愛と一緒に帰ろうとした
んだ。そしたら、待っててあげるから行かなきゃだめだって言われたんだ」
「いやーなんていうか、愛は本当にジーサンの事が好きなんだねぇ」
「あんなこと言い出すとは思わなかったよ。さすがに僕も悪いと思ったから帰っていい
よって言って委員会出たんだよなぁ」
「これなら二人はずっと仲良しでいるね。安心安心」
 再び沈黙に包まれる。
 時計の音だけが聞こえる。
「ねぇ、ミライ、起きてる?」
「起きてるよ」
「未来の僕とミライはどんな感じだったの?」
「未来のことを知ると違う未来になってしまうかもしれないんじゃなかったのー?」
「まぁいいじゃないか...」
「ふっふっふ、教えてあげてもいいけど、残念な話ばっかりだよ」
「あぁ...じゃあいいや...」
「うん、聞かないほうがいいよ。これからは違う未来、ううん、誰も知らない未来が待
っているんだから...」
「そうだね...」
 時三は眠そうに欠伸する。
「もう...寝よっか」
「うん、おやすみ」
 残りの三日間のことを考える。
 かけ蒲団を被りなおし眠りに着く。
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