mirai

4日目2

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「うーん、見当たらないなぁ...」
 昼休みになる。愛はさっそく時三にいいところがないか尋ねた結果、即答された。
 愛は笑った表情のままほろりと涙が流れる。
「あぁ! 嘘! 嘘! ほら! 僕が寝ちゃうと起こしてくれるし! 他にもほらね。
愛といるととっても楽しいよぉー...ほーらよしよし」
「なにやってんだよ、ジーサン...」
 昼休みになった途端涙目になっている愛と平謝りを続ける時三を見て森本はあきれる。
「ジーサン...そういえばミライはまだなのか...。俺は腹が減ってもうダメかもしれない
...。午後の授業を生き抜ける気がしない...」
「さっき愛から弁当もらってまだお腹すいてるの?! ちょっと待ってて、今ミライに
電話してくるから...あとそろそろスリッパ履き替えたほうがいいんじゃない?」
「あぁ俺も玄関まで行くか...。...ってお前さっき起きてたのかよ...」
「寝た振りしてたけど森本は良い事言うね」
「そうかぁ...?」
「うん。愛ってさ、色々コンプレックス抱え込んでてさ。たまにすごく落ち込んでいる
時があるんだよね。僕が何言っても返事は返してくれるんだけど心ここにあらずって感
じになるの」
「さっきの感じ見てるとそこまでひどくは見えないけどなぁ...」
「うん、僕も森本に励まされている愛を見ていつもと違うなって。きっと森本やミライ
が友達になってくれたからだと思う」
「そんなんで変わるのか?」
「うん。愛ってさ僕くらいしか友達いないんだ...。多分、そのこともコンプレックスに
なっていたんだと思う。けどここ数日でミライや森本と話すようになって友達の輪が大
きくなった。愛の環境に変化が起きて、愛も少し変わることが出来たんだと思う」
「ずいぶん自信たっぷりに言うなぁ」
「だって、前より積極的に話すようになったもん。それに話していて笑うことも増えて
るし、あんまり感情出さない頃が嘘みたいだよ」
「へぇ、今の愛しか俺は知らないからなぁ、しかも会ってまだ二日目だし」
「ありがとね」
「なんだぁ? いきなり感謝して不気味だぜ...」
「いや、森本達がいなかったら愛のあんな姿は見れなかったかもしれないもん」
「まぁ、でも感謝するんだったらミライにするんだな。俺だって留年して学校に行きた
くなくて制服姿で時塔公園でボーっとしてたし。そこにミライが通りかかってよ。アイ
ツも学校行きたくなくてウロウロしてんのかなって思ったら声かけちまったんだ。そし
たら俺が逆に説得されちまってよ。もしあそこでミライに会ってなかったら俺はどんど
んダメになっていたと思う」
「学校行ってないくせに制服姿で説得するって、相変わらずむちゃくちゃだね...」
 時三と森本はお互い苦笑いする。一階の玄関で森本と別れる。時三は校舎裏から電話
をかけようとしたら、何か食欲をそそる匂いがしてきた。
「ん? ...カレーかな?」
 近くの家で作っているのかなと、辺りの家を見渡しながら携帯電話を耳に当てる。
 すると、校舎裏の奥の方に給食に出てくる大鍋がポツンと置いてあった。
 最初はゴミ箱かと思ったら、中にはカレーがたっぷり入っていた。
「「なんでこんなところにカレーが...」」
「ってうわぁ!」
 いつの間にか時三の背後にミライがいた。
「ジーサン、驚きすぎだよ」
 ミライは思っていた以上に時三が驚き、思わず吹き出す。
「いつの間に後ろにいたの...」
「ご飯を取りに行ってたの、この子を早く持っていかないとね」
 ミライは大鍋の取っ手を掴んで持ち上げる。
「あぁ、やっぱりこれミライが作ってきたの」
「そうだよ。あ、大丈夫だよ。ちゃんと取り皿持ってきてるし。スプーンもあるよ」
 ビニール袋からは紙皿とプラスティックのスプーンが覗いている。
「これ、四人分じゃないないよね...」
 何かいいことを思いついた子供のように満面の笑みを浮かべる。
「どうせなら、クラスみんなで食べようかなっと思ってね」

「まさに給食だな...」
 森本は皿いっぱいに盛ったカレーを頬張りながらクラスを見渡す。最初はクラス中が
呆然としていたが森本がカレーに飛びつくと、水が流れるかのごとくカレーの前に列が
出来た。
 教室の後ろで、ミライはカレーを盛る。その横で時三はご飯を盛る。
「ご飯こんなによく調達できたね...」
「いやー近くの小学校の給食室に頼みに行ったらいいよって言われたの。だからカレー
にしちゃった!」
 ミライっはテヘっと笑顔を作る。
「本当...、よくやるよ」
 時三は小さく笑う。
「いやーでも俺たちの分だけじゃなくクラス全員分作ってくるとは...」森本は空になっ
た皿を片手に列に並んでいた。
「森本、とりあえず一人一杯だよ。みんなに配り終えてから並んで」時三はご飯の入っ
ている大鍋を覗き残りの量を確かめながら森本を止める。
「仕方ない、腹八分目で止めておくか」
 森本はしょぼくれて席に戻っていった。

 全員に配り終わる頃には大鍋は大分軽くなっていた。最後の一人分を盛るためにお玉
で大鍋の底からかき集める。
「はい、どうぞ」
 最後の一人に配り終わる。
「これ絶対他のクラスからも来ていた奴いるね...。森本は他の生徒に頼んで三杯くらい
食べてた気がするし」
「残っちゃうより全部食べてもらう方がいいじゃん」
「おい、残っていたならいつでも俺を呼べよ」
「ミライちゃんカレーおいしかったよ」
 持ってきた器具を片付けながらそれぞれが感想をもらす。
 片付けていると時三はまだ自分が昼食を食べてないことに気付く。
「あぁ...僕まだ食べてないよ...おなかへって来た...。ミライ、なんか残ってないの?」
「ごめーん...もう品切れだー」
「...! あ、私のお弁当を...!」
「それはさっき俺がもらっただろう」
 愛は走りだそうとした瞬間萎れるように膝をつく。
「俺、カレーパンもう一個あるからやるよ」
「あぁ、なんか複雑な気分だけどありがとう...」
 カレーの香りが残る教室で、頬張るカレーパンはカレー味に感じなかった。

「そうだ、ミライ。今日の晩御飯二人を呼んでみようかと思うんだけど」
「みんなで晩御飯?! いいじゃん、いいじゃん! やろうよ!」
「でも、まだ二人を誘ってないから分からないけど」
「それじゃあ、来るようだったら連絡してよ」
 ミライは電話をかける仕草をする。
「あ、もう一つ提案があるんだけど晩御飯はミライじゃなくて僕たちが作ろうかと思う
んだけど」
「ジーサンたちが?」
「どうかな?」
「...うん! じゃあお願いしちゃおっかな!」
「じゃあ今日は帰りに食材とかみんなで買って帰るからゆっくりしていてよ」
「わかった。それじゃ、あたしは帰ろうかな」
 ミライは持って来た荷物をまとめる。大鍋二つに大量の紙皿とスプーンが入ったゴミ
袋。
「入ってきた時はどうしたの?」
「普通に校門から入ってきたよ」
「帰りも校門から出る?」
「まだお昼休みも終わらないし、行けると思う」
「じゃあ、校門まで送って行くよ」
「じゃあ俺は鍋もってやるよ」
「私は、お皿とかのゴミ袋持つね」
 森本と愛はそれぞれ持つ。
「じゃあ僕はもう一つの鍋持つよ」
「あ、ありがとう、みんな」
「校門までだけど、この荷物はさすがに目立つから急ごう」
 時三を先頭に、早足で廊下を進む。廊下を鍋を持った男子生徒と大柄に男子生徒にゴ
ミ袋を提げた女子生徒と見知らぬ女子生徒一人の集団はいやでも目立っていた。
 時三は早足で階段を下り、一階を歩きながら森本と愛に先ほどの提案を話す。
「ねぇ、二人とも。今日の晩御飯さ、うちで作って一緒に食べない?」
「なんだいきなり」
「ほら、ミライがさ日曜日には元いた場所に帰るんだ。だからその送別会みたいな感じ
でさ、うちで出来たらいいかなーって思ったんだけど」
「え、時三君の家で? んー...。私は大丈夫だよ」愛は上を見る仕草をし考える。
「ちゃんとした晩飯にありつけるなら喜んでいくぜ!」森本は鍋を片手に食い付いてく
る。
「じゃあ、二人ともオッケーってことで、帰りに食材買って帰ろうか」
「ジーサンの料理以外が食べられるのかぁ。どんな料理が出てくるんだろう。特に愛の
には期待してますよぉ」後ろで聞いていたミライはニヤニヤし、愛の背中に寄りかかる
ように顔を近づける。
「ミライちゃんの好きな料理ってなに?」
「プリン!!」
「プリンは晩御飯にならないでしょ...」ミライの条件反射のような解答に時三はすかさ
ずつっこみを入れた。
「じゃあオムライス!!」
「オムライスね。でもみんなでオムライス作るのもくどくなりそうだね。愛はオムライ
ス作れそう?」
「うん、出来ると思う」
「俺だってちゃんと作れるからな!」
「森本と僕は一緒につくろう。そういえば、森本の弁当ってなんだったの?」時三は愛
に尋ねる。
「えーっと、ハヤベンがカレーパンでお弁当がカレーパンだったよ」
「え? じゃあ僕がカレーパン貰ってなかったら三つもカレーパン食べるつもりだった
の?!」
「しかも、あたしのカレーも三杯平らげているからね...」
「なんだよ! 今日はたまたま、カレーパンが三つだったんだよ」
「カレーパン三つだったって...。どんな状況なのか想像できないんだけど...」
 時三はカレーの話をしているだけで、胃が空腹を訴えだす。
「森本の家の近くのパン屋で売っているとか...。そう、その名もランダムパン...! 一
律百円! パンじいさんの気分によって出るものが変わりますって感じとか」ミライは
すごいことを思いついたような笑顔になる。
「カレーパン三つって俺、絶対パンじいさんに嫌われてるだろ...」森本は唖然とした表
情に染まる。
「も、もしかしたらパンおじいさんがカレーパン作り過ぎちゃったのかも...」愛は慌て
てパンじいさんを庇う。
「それで、パンじいさんにやられたの?」時三は一応聞く。
「いや、家にあるパンをテキトーに弁当箱に詰めたんだよ」
「なーんだ、じゃあパンじいさんはいないんだ...」ミライは遠い目になる。
「じゃあパンおじいさんは作りすぎじゃなかったんだね!」愛はうれしそうに笑顔を浮
かべる。
「そろそろ、パン工場から離れようよ」
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