mirai

4日目4

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「ここでいいの?」
「うん、ソコにうっすら切れ目があると思うの」
「......」
「ちょちょっと...クすぐったいよ...」
「ロボットのくせに面倒臭い奴だなぁ」
「これからもっと...面倒臭いことになるんだから...文句言わナイの」
「あっこれかな」
「あっ...ソレ、その切れ目を広げて」
「ん...これ指はいるの?」
「何回か擦レバ段々広がっていくと思うから...」
「......あっ...これで指が入るかな」
「ちょっと、優シクオ願い...」
「入った入った。そしたらどうするの?」
「そしタラユっくり広げていって...」
「一度入るとすんなりいくんだね」
「うぅ...この感カク、気持ち悪い...」
「大丈夫?!」
「あの...、早くしてくれないかな...森本も愛もまだ帰っテナインでしょ...」
「そうだった...じゃあ急ごう」
 時三は一呼吸置く。
 ミライの体の皮膚を一気に剥がす音が部屋に響く。

「で、次はどうするの」
「次は顔...なんだけど。ジーサン廊下で待ってて顔のは自分でやるから」
「わかった」
「絶対に...覗かナイでヨ...」
「大丈夫、覗かないよ」
 顔を見られることだけは譲らなかった。
 時三は廊下で、ぼーっとする。手を見ると少し粘々した液体が糸を引いている。何で
できているんだろう? そんなことを考えながら廊下で待っていると。
「もうイイヨ、少しイソ...イソゴウ...あたしの時間が...ちょっとタリないカモ」
 ミライの声に違和感が出てくる。
「大丈夫?!」
「ダイジョウブ...」
 ミライの顔は包帯でぐるぐる巻きになっていた。金属で出来た四肢が月の光に反射し
ている。
「次はどうするの?!」
「...ミセタクナいんだけどね...カオはダメだよ...ミセ...ミセられない...」
「どうしたの?! 大丈夫?!」
「大ジョウぶ、だいじょぶ、ホントウはダメダケドネダイジョウブダイジョウブ」
「ミライ...」
「電ゲンをキってもラウンダけど音セイ認識とドウ作認識が...ア、ア...アるんだけど...」
 時三はミライの異変に焦りをみせる。
「どうすればいいの?!」
 ミライは時三の言葉に反応が薄くなり淡々としゃべりだす。
「チョット待っててネ、オジイチャン...オンセイニン識と動サニンシキは個ジン設テイ
ダカラ.........あたシに心臓の音を聞かセナガラ...また明日...って...イ、イ、言えばいい
ヨ」
「それが、未来の僕の設定したパスワードなんだね?!」
 時三はミライを心臓の音を聞こえる様に体を引き寄せる。
「ウレシイウレイシイおじいチャンウウウレイシシイ、ソレト...」
「それと...ジーサン。キドウパス...パスワードが...アルの...起動...パ...ス...ワー...ドハ
アアアアアアアアアアアアアアアアアア...」
 ミライが動かなくなり、時三はミライをゆする。
「ミライ! ミライ! どうしちゃったの?!」
「アアアアアアアアア...『セーフモード作動』」
「セーフモード?!」
 突然女性のアナウンスが流れ時三は頭が真っ白になる。
『安全に電源を落とすには終了パスワードを作動させてください』
「そんな......ミライ! ミライ!」
『安全に電源を落とすには終了パスワードを作動させてください』
 ミライからは無機質にアナウンスが流れ続ける。
 その姿はとても先ほどまで一緒に晩御飯を食べていたミライとは似ても似つかなかっ
た。
『安全に電源を落とすには終了パスワードを作動させてください』
「...」
『安全に電源を落とすには終了パスワードを作動させてください』
「...」
『安全に電源を落とすには終了パスワードを作動させてください』
「...ミライ...また、明日」
 その時、びくっとミライが跳ね、鉄のような重さが時三に寄りかかる。
 時計の針の音だけが聞こえる部屋の中時三はミライを静かに床に寝かせタオルで無機
質な体を拭きとる。
「ミライ待っててね...」
 数枚のバスタオルでミライを胎児のように包む。そして大きな旅行バッグにミライの
来ていた制服と私服を入れる。
「本当に大丈夫なのかな...」
 時三は旅行バッグを開けもう一度中を覗く。体はバスタオル、顔は包帯で見えなくな
っている。息をのむ。直せる保証はない。そしてこれがもし明るみに出たら、終わりだ
と感じ汗がこめかみを伝う。やはり壊してしまった方が良かったのではないかとよぎる。
「ミライ...頑張るよ...きっと、直して見せる」
 時三はその囁きを一蹴する。
 部屋の外からはテレビの音が聞こえる。
 時三は二人にどう話すか考えながら森本と愛がいるリビングに戻った。
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