mirai

みらい4

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 目が覚める。バイクのエンジン音、カラスの鳴き声、ミライの横顔。
「あっ...」
 時三はぼんやりした頭が覚醒していく。
「あれ...いつの間に...」
 徐々に覚醒していき、昼食を取り過去のデータを見ている間に寝ていたことに気付く。
「ん、なんだ」
 時三は涙が流れていたのに気付く。
「変な夢を見た...気がする」
 寝ていた時のことを思い出そうとする。しかし、夢は霧のように時三の頭から消えて
行く。
「ミライの過去を見た...気がする。」
 時三はミライの寝顔を見る。
「データを見ていたからかな...」
 時三は部屋を出る。日が暮れ夕焼けが廊下と時三を照らす。
 夕日は終わりを感じさせる。親の下に子供は帰る時間。
 時三はミライの元気な姿を思い出す。しばらくして無機質な部屋に入り、機械のケー
ブルをミライから慎重に抜く。
 ミライを抱き上げる。
「くっ、これだけが欠点だよなぁ。ミライ...。」
 時三はゆっくり玄関を出て車の後部座席にミライを乗せる。
「時三君どうしたの?」
 買い物から帰ってきた愛が何をしているのかと車に近付く。
「ちょうど良かった。これから海に行こう!」

「ミライちゃんを起動する。何かが分かったの?」
 愛は自動車の助手席からバックミラー越しにミライに視線を送り、時三に尋ねる。
「あぁ、多分これが、正解だと思う...。どうせ三十年ぶりに再会するならミライの行き
たがっていた場所で起こしてあげようかとね。......もし違っていたら...ミライとはお別
れだ...」
 時三は険しい顔つきで海に向け自動車を走らせる。
 夕日に照らされ赤い光が青い海に反射する。
「ミライ、聞こえるかい...。今...起こすよ...」
 時三はミライをおんぶして砂浜にゆっくり駆ける。
 その後ろから愛は心配そうについていく。
 時三は息を切らせ砂浜に立つ。
 愛はその後ろ姿を見つめ続ける。
 ミライは時三の背中で寝ている子供のように動かない。
 時三は膝を着きミライを砂浜に寝かせ一度深呼吸しその言葉を吐き出す。
――...。
 時が止まる。
 誰もかれも止まる。
 波も、雲も、木も、鳥も、人も。
 音も何も聞こえなくなる。
 波の音も、風の音も、木のざわめきも、鳥の鳴き声も、人の声も。
 何もかもが止まった。

―おじい...ちゃん...?

 止まった時間が動き出す。
 少女が目を開ける。
 少女の口から声が聞こえた。
 時三は涙があふれ前が見えない。
 愛が何か言っている。
 時三は何も聞こえない。
 ただただ、その場で涙を流した。
 声を上げて泣くわけでもなく涙を流した。
 時三を見る少女は何があったのかと戸惑いながら時三の顔をやさしくなでる。
 時三は操り人形の糸が切れたように動かない。
 少女が何か言っているが聞こえない。
 少女が時三の頭をなでる。
 何かが体から抜けて行く感覚がしその声がようやく届く。

「ただいま...」
「あぁ......おかえり...!」
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