物語

超過学のある街で1

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 俺は目が覚めバイザーを脱ぐ。光が眩しく薄らと目を開ける。
 すると視線の先にはスーツ姿の見知らぬ男性が立っていた。
「お父様……」
 レイが寝台から上半身を起こしぽつりとつぶやく。
 スーツ姿に身を包んだ男性はどこか品があり高雅な雰囲気を纏っていた。
「すまなかった……レイ、それとマドカ君にミミ君。君らには多大な迷惑を掛けてしま
った」
 レイのお父さんは深々と頭下げる。一瞬とはいえないくらいの時間頭を下げそしてゆ
っくりと上げる。
「顔を上げてください。レイちゃんのお父様がギヨタンを発動させたおかげで、助かっ
たんです」
 ノリコさんはレイのお父さんを見て言う。
「いえ、謝ってすむことではないですが、謝らせください。本当に申し訳なかった」
 レイのお父さんは再び頭を下げる。
「あの無礼を承知で一つ聞いていいですか?」
 俺はレイのお父さんに言わずにはいられなかった。
「なんでも聞いてくれ」
 レイのお父さんは顔を上げ柔和な笑顔を向ける。
「あなたにとってレイは何なんですか?」
 レイのお父さんから笑顔が消える。
 そして一度目を瞑り、ゆっくりと目を開け、言葉を選ぶように口をそっと開ける。
「レイは……私にとって、大切な家族だ」
 レイのお父さんは真剣な表情でまっすぐと俺を見て言った。
 俺は自分で質問しておいていざ答えられて思わず視線をそらしてしまう。
「そうですよね……。すみません、変な質問してしまって」
「いや、私はそう疑われても仕方のないことをやってしまった、本当にすまなかった…
…」
 レイのお父さんはまたまた頭を下げる。
「いえ、レイが助かったんです。だからもう、大丈夫ですよ……」
「ほら、とりあえず体調チェックをするわよ。すみませんがお父様は席を外してもらっ
てよろしいかしら?」
 いつまでも誤り続けそうだと思ったのかノリコさんはそう言うとレイのお父さんは
「失礼します」と言って外に出て行った。
「はぁ……疲れた……」
 俺は椅子からずり落ちるように体を伸ばす。
「開堂さん、ご迷惑をお掛けしましたわ」
 レイは寝台から降りるとノリコさんのそばに行き頭を下げる。
「レイちゃんも謝る必要はないわ。こういう時はありがとうって言われる方がうれしい
わ」
「……ありがとうございました」
 レイは少し恥ずかしそうにノリコさんにお礼を言う。
「ミミお腹すいたですネー……」
 ミミは天井から充電コードを引っ張ってきて髪留めバッテリーに刺している。
「待ってミミ。あなたもチェックしてからじゃないと充電しちゃダメよ」
「なら、早くして欲しいですネ……」
 ミミはふらふらしながらノリコさんのもとに駆け寄る。
 ノリコさんは手早く体調チェックを終えるととりあえず一旦解散しようと提案する。
 みな、消耗しきっていたため異論はなかった。

「今日は本当にありがどうございました。後日改めて挨拶に来ます」
「本当にありがとうございました」
 玄関に出て俺とノリコさんはレイのお父さんとレイを見送った。二人して深々と頭を
下げる姿はなんだか変なところで親子なんだなと思わせる。
 レイとレイのお父さんの背中を見ているとなんだか思わず笑みがこぼれてしまった。
「すごいね、レイのお父さんは向こうの仕事全部ほっぽりだしてきたんだってね」
 二人の背中を見ていると自分の家族のことを思い出してなんだか、すこしさみしい気
持ちになってしまう。
「わたしだってマドカやミミに何かあればさっと駆けつけるんだからね」
 ノリコさんは俺の肩をぽんぽん叩いて言う、
「どうしたの、突然」
「マドカが寂しそうな顔して言ってるからよ。私達は家族、家族なんだから助けるのは
当然なんだからね」
 ノリコさんはどうやら励ましてくれていたのだった。
「あ、ありがとね、母さん」
「え? 今なんて?」
 ノリコさんはとても驚いたような顔で俺を見る。
「ありがとね、ノリコさんって言ったんです」
「今、ありがとね、母さんって言わなかった?」
「い、言ってないですよ……!」
 言ってしまったような気がして慌てて誤魔化す。
「ちょっとミミー。聞いてよー。今マドカがねー」
「言ってないってっ、どうしてそういうこと言うんですかっ。ちょっとノリコさんっ!」
 こうして俺らはいつも通りの学生生活にもどった。
 後に聞いたことだがレイのギヨタンは引越し先の日本に届く予定だった。
 それがなぜか海外のレイのお父さんのもとに届き慌てて日本に帰ってきたのだった。
 折戸さんは色々手続きとレイのお父さんの出迎えで家にいなかったのだ。
 レイは二、三日で体調は回復しすぐに学校に来れるようになった。
お父さんもしばらくは日本にいるらしく、クローンということについても話し合った
らしい。けど、レイとはそのことについてはあまり話さない。
どっちかというとお父さんが全く家事ができないと愚痴をにこぼしている。
話を聞いている限りとても仲が良さそうだった。
 俺はトオルの悪巧みに巻き込まれて毎日酷い目に合っている。
 レイはどこを見ているのか「仲のよろしいことですわね」と言ってくる。
 それとなんと、ノリコさんからミミが学校に通う許可が下りたのだ。
 はやく学校に行きたいと、ミミはまるで初めてランドセルを担いだ小学生のようには
しゃいでいる。


 そして時間が流れ、今日も平和な毎日が続いている。
「ねぇマドカ。最近変な事件が起きているらしいの。知っているかしら?」
「あ、ミミ噂を聞いたことありますネ!」
 けど……、もしかしたらまたこんなことが起こるかもしれない。
 そして不思議なことが起きているかもしれない。
「あら、調べに行くんですの? ならわたくしもいきますわ。見知らぬ超過技術をみれ
るかもしれませんし」
「ミミもいきますネ! みんなで出かけると、とても楽しいですネ!」
 ここは、超過学のある街だから、ね。
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