mirai

未来

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 少女は建物を見上げていた。時塔学園。そしてその校門から放課後になりゾロゾロで
てくる学生たちを見る。特に思い入れとかあるわけでもない。ただなんとなく見ていた
だけだった。少女は見た目十五から十七歳程度。今の時間帯なら制服を着て下校する時
間である。
 しかし少女は人間ではなくロボットである。特に家事全般をこなす感情機ヘルパーロ
ボットというのが売りの量産型である。つけられた名前はミライ。犬に甘い菓子の名前
をつけるくらい普通の名前だ。今日もいつも通り買い物を済ませ家路に着く。
「ただいま、おじいちゃん」少女が帰宅すると家には誰もいない。書置きがあるだけだ。

―――晩飯は作って置いといてくれ。

 書かれたメモを見て少女はまたか、とため息をつく。かれこれ二週間以上この状態が
続いている。少女を買った男は科学者であり発明家である。何か新しい発明品を作る時
は決まって家を空ける。少女が就寝後、夕飯だけ済ましてまた何かの作業に戻る。そろ
そろ三週間目に突入しようとしていた。

 少女が朝起きると昨日の晩飯が済まされており、食器が水に浸けてある。とりあえず
生きている事を確認し少女は家事を済ます。

 夕方になり少女はデパートに買い物に行く。この時間になると学生や主婦がどっと増
える。学生は学校の屋上の工事が終わり三十年ぶりに使えるようになることや最近公園
に不審者がいるとか話している。そんな話を右から左に聞き流しながらエレベータに乗
り込むと過積載の警告音が鳴る。しまった、と少女は赤面しながらエレベータから弾き
出る。少女はロボットである。その体は人間より重い。少女にとって、女の子なのに重
い事は地味にコンプレックスだった。

 夕飯の食材を買い終えたその帰り道。いつも通り学校の校門の前を歩く。屋上は工事
が終えたらしく転落防止のネットには早速、ラグビーボールなどが入っていた。そして、
視線を下に向ければ家路に着く学生たち。男女ペアのもいれば同性四人で帰るもの、一
人で帰るもの、部活動や委員会に励むものもいた。
「ただいま、おじいちゃん」少女が帰宅すると家には誰もいない。書置きがあるだけだ。

―――晩飯は置いといてくれ。

 殴り書きのメモを見て少女はため息が出る。とりあえず生きている。

 三週間目に突入した。いつも通り夕飯を済ました食器が水に浸けてある。今回の発明
は特に長い。今までも家を空けても一週間、長くても二週間。それに夕飯は一緒に食べ
ていた。だが、今回は三週間も会っていない。夕飯は食べてはいるが、一緒に食べても
いない。少女が寝た後にやってきて夕飯を急いで食べ、また研究に没頭する。そんな日々
が続いた。
 今日も少女の一日が始まる。洗濯物を回し、掃除をかけ、タイムセールのチラシを調
べる。少女の時間は止まっていると言っても良いほど同じ毎日を繰り返していた。

 買い物の帰り道、夕日を背に少女は買い物袋を片手に学校の前を通る。特に黄昏てい
るわけではないが夕日は終わりの気持ちになる。もうおじいちゃんに会えない...。そん
な気持ちになっていた。
 なんとなく早足で家路に着く。
「ただいま、おじいちゃん」少女が帰宅すると家には誰もいない。書置きがあるだけだ。

―――深夜一時に時塔公園の広場に集合。晩飯の準備をしておくように。

 少女の時間が三週間ぶりに動き出した。


 少女はなんとなく早足になっていた。いったい何を研究していたのか。いったい何を
発明していたのか。いったい何が起きるのか。
「三週間もほったらかしにして...なにやっていたんだか」悪態をつく言葉からは期待と
興奮が混ざっていた。

 深夜一時。時塔公園。桜が散りまわり木々には緑が生い茂っている。広場に一つの影
がうっすらと見える。少女は駆け足で近づく。
「三週間も家ほったらかして、なーに作っていたんですか...」
 清潔感があまり漂わない上着を羽織ってうずくまっていた男が立ち上がる。
「おぉ! 来た来た! よし、こっちに来てミライ!」そういって少女の腕を引っ張る。
「ちょ! ちょっと! 待って! おじいちゃん」興奮やまぬ男は無視して何もない場
所で止まる。そして自分の時計と公園の台時計を見比べる。
「まってて! さぁそこを見ててよ!」
 男は何もない地面を指差す。
 少女は言われた通り何もない地面を見つめ男に何か言いたげに視線を向けると。
「しっ! ......くるぞ............三...二...一...」
 次の瞬間、突風が吹き抜けた。
 そして何もない地面に何かがあった。どこから落ちてきたとか、見えない速度で移動
してきたとかではない。さっきまでそこにあったように何かがあった。
 少女が何か確かめようと目を凝らしていると
「成功だ! ついに......! 完成したよ!」男は歳に似合わず両手を挙げ空に向かって
叫ぶ。
「何が起きたの?」展開についていけない少女は恐る恐る男に質問を投げかける。
 男は待っていましたといわんばかりに何かに近づく。何かの正体は金属で出来た箱だ
った。箱を押さえるベルトをはずし、中には腕時計と懐中時計が入っていた
 男は台時計と腕時計を見比べる。
「この箱はタイムスリップしたんだよ」
 静かに、そして興奮が隠せぬ様子で男は言う。
「タイムスリップ...?」
 少女がすっとんきょんな声を上げるが男は気にせず説明を続ける。
「そう! 見て、この時計と台時計と僕の時計を」
 男の腕時計は一時十六分。台時計も十六分。
 箱の腕時計は一時六分を示していた。先を早く説明したそうに男は話を続ける。
「この箱は十分前からタイムスリップしてきたんだ。そしてその証拠がこの十分遅れの
時計」
「十分後に飛んできたから十分遅れている...。つまり、タイムスリップしてきたから遅
れている。そういうこと?」少女は手を口元に持ってきて考えをまとめながら声に出す。
「そういうこと。そして次にミライ! 君の出番ということなんだ!」男は目を見開き
顔を近づける。
「あたし? なんで?」急に近づかれ少し仰け反る少女。
「これが、タイムトラベルを実現した装置だ」男は懐中時計とベルトを取り出し少女に
渡す。
「ベルトを腕に巻いて、その懐中時計を開けてみて、ほら早く!」少女は興奮する男に
少し引きながら懐中時計を開けると中はデジタル表記の時計になっていた。年号、月日、
時間の順に表示されている。
「まずは、行きたい時間を指定する。懐中時計の一番上のスイッチの右となりのつまみ
を捻れば年号が変わる。年号のとなりが日付、一番端が時間だ」そういって男が年号の
つまみを捻りながら説明する。
「ちなみに...まだエネルギーは往復一回分しか充電できない...。気をつけてね...」
 男は少女に顔を近づけ時計のエネルギー残量を指さす。
「気をつけてねって...どういう...」
「あぁ、今でも思い出す。懐かしき学生時代。誰でも一度は学生時代に戻りたいと夢見
る。そして僕もそうだった。もしかしたらあの時のことがコイツを作るきっかけだった
のかもしれん!」男は少女を無視してまた一人、暗い公園の中を子供のようにはしゃぎ
だす。
「次は人間自体を巻き戻す発明品?いや、それでは今の記憶を無くすのかな?それとも
魔女みたくの若返る薬?」男は何かを呟き意識がどこかにいっていたが、数分後戻って
きた。
軽く咳払いし「まぁ今はいいや。それでさっきの続きで、今試しにタイムスリップさせ
たがまだ、生物で試していないんだ。そこでミライ! 君にタイムスリップしてもらう。
機械の体に人の意思を持ったロボットだから頼めることだ。もしこれでミライが無事意
思を持ったままタイムスリップすることに成功すれば今回の発明は成功だ。あ、あとい
い忘れたけどベルトはちゃんと着けておくことね。そのベルトの周りをまるまる、タイ
ムスリップさせるから近くに何かあると、時空間が抉り取って、抉り取った部分もタイ
ムスリップさせてしまうからね。周りには細心の注意を払っておくように。長くなった
が説明は終わり。わかった?」
「まぁ...とりあえずは」少女は懐中時計とにらめっこしていた。
「よし、じゃあ、まずは......」男は伸びをしながら言う。
「帰って晩飯にしようか!」

「いやーうまかった! 久々にご飯食べた気がする」
「はいはい、おかわりする?」
「いや、大丈夫だよ。しかし悪かったね...。三週間もほったらかしにして、飯はありが
たく頂いていたけど、全然相手してやれなかったね」
 男はやつれた顔に笑顔を浮かべる。
「大丈夫だよ、それにとりあえずひと段落ついたんでしょ?」
「あぁそういえば、お前の整備を最後にしたのはいつだったっけ?」
「えーっと...三週間前だよ。ほら、これから研究のおおずめだって言って、じゃあ今の
うちにやっておくか、って言ってなかったっけ」
「おぉ、そうだった、そうだった。じゃあ、あと一週間は大丈夫だな」
「忘れないでよねー」
「いや、お前も忘れていただろう...」
「ご飯はおかわりする?」
「いや、いい。...それにしてもここも変わったな。昔は窓から大きな木が見えたもんだ
がいつの間にかなくなったな...」男は一面に闇が広がる窓の外を眺める。
「だが! ついに、その流れを溯ることに成功した! なくなった木も見にいける!」
 アパートの狭い一室で改めて男は歓喜の声をあげ充電していたタイムマシンを大事に
なでる。
「おじいちゃん! お隣に聞こえるよ! ただでさえ不審者扱いされている噂が流れて
いるんだから...」
「いや! この喜びは味わっておけるうちに味わっておきたいんだ!」
「よっぽど今回の発明がうれしいんだね...タイムスリップできることは確かにすごい発
明だけどどうしてタイムマシン作ろうとしたの?」
 はしゃいでいた男はタイムマシンをゆっくり充電器に戻しもう一度窓から外を眺める。
「...そうだね...今では色々なことが作る理由になっているけど、......きっかけは高校三年の時だな」
「そんな早くからタイムマシンを作ろうとしていたの?」
「いや、タイムマシンを具体的に造ろうと思ったのはもっと後だけどね。後悔したこと
があったんだ」
「その高校生の時に?」
「うん......喧嘩したんだよ...ずっと一緒にいるんだろうなって奴と」
「喧嘩?」
「あぁ、でも喧嘩といっても取っ組み合いや言い争いとかではない。ある日からギクシ
ャクしだし何時の間にか話さなくなって、離れていったんだ」
「どうしてギクシャクしだしたの?」
「それがわからないんだ...。ちょうど今から、三十年前の三日後...。今でも鮮明に思い
出せる。それでギクシャクしてしまった理由を知り謝りたいんだ」
 男は窓から目を離し、椅子に腰をかける。
「それに、その過去を変えないと僕が危ないんだよ...」
「危ないって?」
「ミライは一回も会ってないだろうけど...その人がね、僕を殺そうとしているんだよ」
「えぇ?! おじいちゃん命狙われてんの?! 何かやっちゃったの?」
 男は薄く笑い少女が用意したコーヒーを一口飲む。
「何もやってないさ」
「じゃあなんで狙われてんの?」
 少女は椅子の背もたれに被さりながら男に聞く。
「分からない...ただその予兆は前々からあったんだろうけど僕もまさか命を狙われるほ
どになるとは思ってなかったからね」
 遠い目をしながらもう一度窓の外を眺める。
「警察には言ったの?」
「いや......言ってないよ」
「言った方がいいんじゃないの?」
「......わかっているんだけどね。あの子を見ていると何とか説得できないかって...思っ
てしまうんだ...」
「それで、説得は...」
「無駄だったね...僕の話なんか聞く耳を持たない。あれはもう......普通じゃなかったよ」
「それで、タイムマシン? よくやるねぇ」
「笑ってくれていい、それにこれだけのためにタイムマシンを作ったわけではないんだ
よ。でもあの人だけは助けたいんだ。あの人と仲直りしたいんだ...」
 男の声にはいつの間にか震えが混じっていた。少女は気まずくなると思いタイムマシ
ンに目を向ける。
「そういえば、あたしはタイムマシンで何をすればいいの?」
「そうだ、それを言ってなかったね」
 男からは震えが消え一度目を閉じ深呼吸をして少女の方を見る。
「これから僕の過去に行ってもらう。懐中時計の時間を合わせてくれ」
 少女は充電器から懐中時計を抜き、男の言う時間に合わせる。考える時のくせなのか
男はもう一度目を閉じ深呼吸する。
「......。いや、やっぱりさっきの日付の三日前にして...。」
「......はい、設定したよ」
「じゃあ、ベルトを...首はイヤだよね...腕に巻いてしっかり止めてね」
「...はい、次は?」
「今の話を聞いていれば何をしてもらうかは漠然とつかめていると思う。これから過去
に行って...」
 男は少女を見つめる。
「...その子を、助けて欲しい」
 少女は胸を張って男に向きなおる。
「...うん、まっかせてよ! じゃあ次に具体的に何をすればいいの?」
「本当にいつもすまない。それで、具体的な案なんだが直接その日に跳んで原因を探っ
てもらおうと考えていたんだけど...言いにくいことなんだけど...もしかしたら過去に跳
んで動き回るともうこの未来には戻ってこれないかもしない」
「え、どうして?!」
「そうだな...ミライがトランプを一枚引くとする」
「うんうん」
「それで、ジョーカーが出たとする」
「それでそれで」
「そこで僕はミライがトランプを引く前にタイムスリップする。そしてミライの前に引
くと...」
「あ、ジョーカーを引かれるからあたしが引く時は別のカードになるってことね」
「そういうこと、ジョーカーを引く未来が別のカードを引く未来になるってこと」
「じゃあ、もしその子を助けたら、おじいちゃんはいないかもしれないの?」
「いや、多分大丈夫だと思う。今までの人生でその子がタイムマシンを作ることや今の
僕を形成する要素としてあまり深く関与していないから大丈夫だと思う」
「え、何?」
「......ようは科学者の僕は助けてほしい子と関係なく、なったから多分修正して帰って
きても似たような僕がいるってことだよ」
「まぁ、つまりその子を助けてもおじいちゃんはココにいるってことね」
「うん、そういうこと。だから駄目だと思ったら戻って来てくれてもいい。あと、もう
一つ言っておくと、過去の僕にタイムスリップしてきたことは話してもいいけど未来の
事は話しちゃだめだよ」
「どうして? 話した方がスムーズに事が運ぶと思うんだけど...」
「さっきのトランプの例を使うんだけどジョーカーを引くことを教えることはどっちに
転ぶかわからないんだ...。ジョーカーが強力なカードになるゲームもあればハズレ扱い
されているゲームもある。僕らのしようとしていることはどんなゲームかわからない。
だから未来のことは一切漏らしちゃいけない...。わかった?」
「...うん...。それで、過去では何をすればいいの?」
「そうだね、問題の三日前に跳んだらまず僕に会って欲しいそして、問題の子の友達に
なって欲しい。そして困っている人がいたら助けるんだ」
「友達? ...と困った人を助ける...」
「そう、友達。何か困ったことがあった時に相談できる友達。ミライは友達がいないけ
どその性格なら大丈夫だと思う」
「む、それならあたしにだっているよ!」
「あれ、いたの友達?」
「おじいちゃん」
「......はは、ありがとう」
「困っている人は、どうして?」
「何が原因か分からないんだ...。いつの間にか仲が悪くなり、離れ、こんな問題になっ
ていた。つまり何が起きたか分からないんだ。だからミライがその問題を浮彫りにする
んだ。そしてミライが干渉すれば僕の過去とは違う形で問題が浮彫りになると思う。今
はそんなことしか言えないかな」
「じゃあ過去のおじいちゃんの周りを調べまくればいいってことね。何にも分からない
で行くより全然マシだね」
 コーヒーを飲み干し男は勢いよく立ち上がる。
「さぁ、ミライ、準備に取り掛かろう。時間は無限。だが僕らの時間は有限だ」
 打って変わって男は上機嫌に鼻歌を歌いながらスーツケースを手に取る。
「さぁミライ、人類初の時間旅行だ! 記念すべき第一号はミライなんだぞぉ。良かっ
たなぁ!」
 男は少女の頭をぐしゃぐしゃなでる。
「おじいちゃん、興奮しすぎだよ」
 少女は先ほどの話とのギャップに苦笑いを浮かべながら言う。
「おぉ、そうだミライ。これからの旅行の記念に写真をとっておこうか!」
 ポライドカメラを三脚に設置し少女と男は写真をとった。
「よし、他にやり残したことはもうないな。ミライ、カメラと写真をしまって」
 少女はカメラと現像された写真をしまおうとした。
 その時、外の風が入り込む。玄関のドアが開いていた。
「...君は...」
 玄関に向ける男の表情は強張る。
 玄関に立っているのは一人の女性。しかし女性とは思えない醜い格好だった。。髪は長
く表情はうかがえない。一瞬ミライを見るような視線を送る。
「時三君...時三君...時三君...」呟きながら土足のまま上がりこむ。
「久々だね。......まだ僕のことを恨んでいるのかい?」男は女性に冷たく厳しくそして
諦めと困惑が混じる声と視線を送る。
「トキミツクン...トキミツクン...トキミツクン...」女性は呟き続ける。
「く...こんな時に来るなんて...」男は逃げ場がないか周りを見る。
 摺足で男は女性との距離を測る。
 すると、女性は倒れこむように男に襲いかかる。
「ぐ......」男はそれを皮一枚でかわす。
「おじいちゃん!」少女は何が起きたか理解できないまま声を出す。
「ミライ、タイムスリップの準備だ! 僕の後ろに来い!」
「トキミツクン...トキミツクン...」女性は録音されたような音を出しながらゆっくり部
屋の奥に男と少女を追い詰める
「...ミライ、準備はできた...?」男は視線は女性に向けたままミライに小さく呟く。
「...うん、大丈夫」少女は懐中時計を握り腕のベルトをさすって確かめる。
「ここでタイムマシンは使えないから外に逃げるよ」男は二、三度視線を辺りに向ける。
「そんな...どうして」少女は窓枠にぶつかる。
「この部屋は今から行く三十年前からあるアパートなんだ...。もし人が住んでいてミラ
イの位置に人や何かがあれば大惨事だ...」
「じゃあ! どうするの?!」
「僕があの人を抑えておくからその間に外に出て学校の校舎裏に行くんだ...そこならま
ず人はいないはず...」
「うん...わかった」
「不安そうな顔をするなぁミライ」少女は不安そうに表情を強張らせる。それを見て男
は薄く笑う。
「なんか、あのひとヘン...おじいちゃんたちと違う...」
「人間なんてそんなもんさ...簡単に壊れちゃうもんだよ」
「トキミツクン、ダイ......。トキミツクン、シン...テル。トキミツクン、......ケテ......
ケテケケケケテテテテテケテケテケテケケケテテケ」女性は男たちに襲いかかる。
 男は抑え込もうと体勢を低くする。そこで違和感を感じる、その速さに。
 男は咄嗟に少女を横に突き飛ばした。
 次に瞬間、男は窓の外にいた。窓から吹っ飛ばされたのだ。
 少女は窓から身を乗り出し手を伸ばす。
 しかし伸ばした手は男には触れない。
 男は天を仰ぎ背中から落ちる。
 少女は男の方を見る。男が叫んでいる。
「ミライ頼ん―――」
 最後まで言い切る前に水の詰まった物が潰れる音でかき消される。
 少女は身を乗り出し下を見たまま固まった。少女の後ろから音の割れた叫びが聞こえ
る。その音で少女は咄嗟に振り向くと女性が少女に襲いかかる。二、三度かわすが、そ
の人間離れした突進に少女の体は浮く。少女は窓から落ちると感じ身を縮こまらせ手を
握る。
そして―――
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