mirai

1日目1

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 ミライは目を覚ます。時刻は七時。少し肌寒さを感知する。腕をさすりながらベッド
の上を見ると時三が掛け蒲団を占拠していた。
「寝相の悪さは前からなんだね...」
 ミライは苦笑いを浮かべながら時三を跨いでベッドから降りカーテンを開け朝の日差
しを部屋に注ぐ。
 時三は眩しそうに寝返りを打つ。それを見てもう一度苦笑いを浮かべ洗面所に向かう。
 一度伸びをし洗面所の鏡の前に立ち髪を二つ結び、リビングのカーテンを開け朝食の
準備を始める。

「おはよー」
「あぁ...おはよー...」
 時三が寝癖を爆発させてリビングに出てくる。
「朝食できてるよ、ほら早くっ早くっ」
 ミライはパジャマにエプロン姿で先に椅子に着いて時三に早く座るよう催促する。
 時三はゾンビのような鈍重な動きで椅子に着く。
 いただきますと一瞥し朝食のトーストに手をつける。
「はぁ...なんか久々に朝食を食べた気がするよ...」
「ジーサンいっつも何食べて学校行ってるの?」
「昨日の残り...」
「それ朝から重くないの? お昼は?」
「昨日の残り...」
「どんだけ晩御飯残してるの...」
「だって朝にご飯作るの無理なんだもん...」
「相変わらず朝は弱いんだね...」
 朝食を食べ終わる頃には時三は元に戻りリビングを後にした。ミライは時三が着替え
ている間に弁当のおかずを詰める。
 時三は制服に着替えリビングに戻ってくる。
「はい、これお弁当。学校ってみんなで昼食はお弁当食べるんでしょ」
「おぉ!、いつの間に」
「あたしはヘルパーロボットだよ。このくらいお茶の子さいさいよ」
「さすがメイドロボ、弁当いただきます」時三はミライから弁当を受け取る。
「む、ヘルパーロボットだよ」
「メイドロボの方が分かりやすいよ」
「むぅー、そこは譲れないの」
「はいはい、ヘルパーね。じゃあ行ってきます」
 時三はミライが普通に家に馴染んでいるのを見て未来からミライを送ってきたのは自
分なんだなとなんとなく納得する。
 ミライはその後は家事をこなした。洗濯物を回し、掃除をかけ、タイムセールのチラ
シを調べる。ちょっと前にもこんなことあったなと遠い先のことを思い出す。
 ミライは未来の写真を覗く。
「あれ...? あれれれれれれ?!」
チラシを放り投げ写真を凝視する。
「おじいちゃんが写ってない......!」
 何かがすでに起こっている。漠然としたモノが着実に動いていることにミライは焦燥
感を覚えた。
(あたし、まだ何もしてないのに......あ、まぁジーサンに接触したけど...いやジーサン
に接触して未来がすでに変わったってこと...? じゃあ昨日公園で事件の関係者の誰か
に見られていたってことになる)
「誰もいなかったと思うんだけどなぁ...」
 ミライは寝っ転がり、写真を天井にかざしながら見る。
「うーん、ジーサンに相談しに行くついでに学校も見てみよう」


「おーい、愛...」
「......えっ...何?」
「わるい! 筆箱忘れちゃって...」
「シャーペン? 消しゴムも使う?」
「いや、シャーペンだけで良いよ。机に忘れてた消しゴムがあるから」時三は苦笑いを
浮かべながらちぎれて角張った消しゴムをつまみながら言う。
「はい、シャーペン」
「ありがと」時三はシャーペンの芯を出し、授業のノートを取り出す。
 愛はノートを取るため前を向く時三を眺める。
「愛、昨日なんかあった?」横目で時三は愛を見る。
「どうして?」愛は心臓を握られる感覚に囚われた。
「いや、愛さっきから元気ないというか、なんか悩んでいる時の顔になっているから」
「あ...」慌てて愛は眉間を手で隠す。
「隠さなくっていいだろう。それのおかげでただでさえ無表情の愛がどうなってんのか
分かるんだから」時三は笑う。
「で、でも...」愛は俯く。
「いつもは表情出ないのに、悩んでいる時だけ眉間にしわ寄っているんだよね」
「あんまり...見ないでよ」
「いいじゃないか。前髪で隠れて見えないんだから。おぉ...たまにしか見れない愛の表
情カッコ泣きカッコ閉。これは貴重だよ」
 下から覗き込むように愛の眉間を見る時三に愛は目が合う。
「時三君は昨日なんかあったの? 眠そうだけど」
「あぁ...まぁ、色々とね。おかげで、全然眠れなかったよ」
(色々あって、全然寝れなかった?! 色々って...)
「どうした愛。顔が赤いよ。なんか今日は大漁だね。いいことでもあった?」
「うっ...なんでもない」
 二人の会話は教員の注意によって終了した。
 その後は時三は居眠りしだし愛はいつも通り授業に集中した。
 昼休みになる。食堂に駆けて行く生徒もいれば、仲の良い友達同士で屋上で食べよう
と教室を出て行くものもいる。
 時三と愛は教室で弁当を食べるのがいつもの風景である。机をくっつけお互いの弁当
を覗き、味見しどんなもんかと言い合う。それがいつもの風景だった。
「あれ、時三君...今日は違う味付けだね」
「そうかな? あぁ...そうかも」
「私のは...どう?」
「愛の作る弁当はいつもうまいわ、きれいわ、凝っているわ、で三拍子揃ってるよ。僕
もそんな弁当作りたいよ」
「時三君だって...今日のはおいしいと思うよ」
「本当? あ、ありがとね...」
 時三は自分の弁当は褒められたことがないがミライの弁当を褒められたことに少し切
なくなった。
 昼食の時間も終わり午後の授業が始まる。時三はすぐに睡魔に襲われ船を漕ぎ出す。
「時三君...寝ちゃまずいよ。前も起こされて廊下に立たされたでしょ」愛は眠りかけて
いる時三を手で突っつく。
「ん...あぁ...そうだ、起きてなきゃ...。まさか、現実で廊下に立たされるとは。漫画の
世界だけかと思っていたよ」
「本当にだめだと思ったらトイレで寝ちゃえば?」
「いいかもしれない。あぁ...眠い。ミライの奴帰ったら...ふわぁあはぁ。やばい、トイ
レ行ってくるわ」そう言って時三は教員にトイレに行くことを告げ教室から出て行った。
 午後の授業が終わり、放課後になる。部活動をするものは着替えだしたり、道具を持
って教室から出て行く。時三も愛も部活に入っていないため、他の帰宅する生徒と同じ
ように教科書を鞄につめ教室を後にする。
「時三君は...このあと何か用事あるの?」
「んー。あ、あるね」
時三は考え込み思い出したように言う。愛は一瞬残念そうな色を見せるがすぐにそれは
引く。
「そう」
「ごめんね」
「いいのいいの」
 二人は廊下を進む。二階から一階へと降りる。
 時三は適当に話題を振る。
「そういえば、森本さん、最後の最後でまた問題起こしてたよね」
「なにやったんだっけ...?」
「喧嘩じゃなかったっけ? あれ? これはその前のだっけ」
「森本先輩っていつも問題起こしていたイメージあるから、分からなくなるよね」
「何だったかなー。でも森本さんとは喧嘩したくないなー。あのひと不良達に目をつけ
られててふっかけられることが多いんだってね」
 一階廊下から玄関の下駄箱に向かう。
「でも、森本さんもすごいよね。入学してすぐ問題起こして学年関係なくみんな知って
いるし」
「教室間違えて、そのまま自己紹介して...授業をそのまま受けていたとかあったよね」
「教員も教員だよね、森本さんも森本さんだけと」
 上履きから外履きに履き替え玄関を出る。
 すると私服の少女が叫んでいる。
「あ...」時三は、早足で叫んでいる少女のところに行き、突っ込みをいれる。
 愛も追いかけ少女のもとに行く。
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