赤目の林道先生

3日目1

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「聞いてください! 昨日! もう! 凄いマナが可愛くて! もう! ムッハァー!」
「えーっと…マホちゃん、何が言いたいのかを先に言ってくれ」
 三日目。昼休みに昨日の成果を聞こうと空き教室に呼んでみたらマホちゃんは大興奮だ。
ケン君に視線を送ってみても、さっぱりです、と肩をすくめる。
「だからもうマナが可愛くてもう、抱きしめたくなっちゃうくらい可愛くて」
 一向に話が進まない。だが、この喜びようから悪い結果ではなかったのだろう。
「おい、マホさっきからマナが可愛いとしか言ってないぞ…」
 ケン君がマホちゃんに突っ込む。そしてマホちゃんは口元は緩み頬は笑い、目尻も笑い
っぱなしでケン君に言う。
「ふっふっふ、ちょーっと待っててね!」
 そう言って教室から走って出て行く。マホちゃんがいなくなりケン君にもう一度視線を
送る。ケン君も先ほどと同じように肩をすくめる。
 少ししてマホちゃんが戻ってくる。その後ろにはマナちゃん。一体何が始まるんだ。
 マホちゃんはボクとケン君が座っている席にマナちゃんと近づく。そしてマナちゃんの
方を向く。
「マナはあたしのこと好き?」
「きらい」
 その時、ボクはマホちゃんの時間が止まったのを感じた。笑顔のまま固まり、呼吸をし
ているのかさえ分からない。もしかしたら呼吸していないんじゃないかとも思った。
「おぉ、すげぇ。しゃべれるようになったじゃないか! 俺の名前分かるか?」
 マホちゃんとは対照的に驚くケン君。マホちゃんのことに気付かずマナちゃんに話しか
けている。
「俺は頭井健太郎って言うんだ。ケンって呼んでくれよ」
「ケン…」
 マホちゃんはマナちゃんがケン君のことを呼んで意識を取り戻す。
「マナ! マナ! あ、あたしは足立真帆だよ! マホって呼んで!」
「マホ…」
「うっへへーい!! あたし達、友達だよね!」
「ちがう」
 その時、ボクはマホちゃんの時間が止まったのを確かに感じた。そして笑っているのか
泣いているのか分からない声を出しながら廊下に駆けて行くのを二人で見送った。
 ボクはケン君に視線を送るとケン君は肩をすくめる。
「あ、ちがう…」
 マナちゃんは視線を泳がし不安そうな顔をする。
「マナちゃん、なんできらいだって言っちゃったの?」
「マホ、マナのほっぺをつつくんだもん…」
 ボクもケン君も二人してあぁ…、っと漏らす。マホちゃんは変態である。柔らかいもの
が好きだ。それはもう変態と以外表現しようがない。それは自他共に認めていることであ
り事実である。そのためマホちゃんは小さい子や女の子が大好きだ(本人談)。
 しかし、ちゃんと線引きはしている。これ以上は嫌がられると思ったらちゃんと止めら
れる。だが、相手がマナちゃんだったことでどこまでやっていいか分からなかったのだろ
う。つまりやり過ぎた。それだけである。
「マホちゃんはだいっきらい?」
「うーん…。…………ちょっとイヤ」
「じゃあ、マホちゃんがほっぺを突かなければイヤじゃない?」
「うん」
「それじゃあ、マホちゃんと友達になる?」
「うん……友達になる」
「じゃあ、教室に戻ったらね。うーん…さっきのはからかっただけで別にあんたのことが
嫌いじゃないんだからね! って言ってあげなよ」
「うん」
 マナちゃんは小さく頷き廊下に出て行った。とりあえずお友達が出来てマナちゃんは人
と話せるようになった。とりあえずはひと段落だろうか。
「先生、それなんかちょっとストライクゾーンボール一個分くらい外れてませんか…」
「あれ? 違った? ケン君がやっているゲーム参考にしたんだけど…」
「いや、ちょ、そこでわざわざ俺の話出さなくていいじゃないですか! 俺は隠れオタな
んですから。踏み絵やっても踏めますからね」
「そうなのかい。ところで次は君にお願いしたいことがあるんだ」
「君に、って俺もマホみたいに誰かと友達になるんすか…?」
「そういうこと。ほら、呼んだ患者がやって来たよ」
 廊下に靴音が聞こえる。さて、次の患者はどんな「問題」を抱えているのか。
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